「弱者」という呪縛

櫻田淳小浜逸郎『「弱者」という呪縛』、PHP研究所、2001

障害者で「右派」の櫻田と『「弱者」とはだれか』を書いた小浜が「弱者を聖化する」風潮を撃つ、という対談本。一番問題なのは、何を攻撃しているのかということがはっきりしていないこと。または攻撃している相手に対する理解が十分でないこと。櫻田は寺脇研の「ゆとり教育」論を批判しているが、高校全入という事態を前提に必要最低限のことを教えるという「ゆとり教育」論の前提をどれだけ理解しているか疑問だし、「総合的な学習」のコンセプトも正確に理解しているとは言えない。よく書けているのは障害の問題を扱って乙武洋匡を批判している3章で、櫻田が乙武ブームに対して持っている不快感はわかるし、いっていることも突っ込みに耐える内容になっている。逆に、フェミニズムや人権を扱った章はちょっとひどいもので、対談している二人がフェミニズムについてあまり深く理解していないので、「どのフェミニストがいっているのか」がわからないままで批判が上滑りしている。人権概念にいたっては、小浜は人権概念自体をよくわかってない(さすがに櫻田はそこまでのことはないが)。例えば差別語狩り批判をするのだったら、「そもそも公の場で差別的表現を使うことにどういうルールを設定するか」という原則をまず議論して、その後で個別の問題を議論してほしい。二人とも、論敵をあまりに矮小化しすぎているので、それに対する批判もつまらないものになっている。