ある北朝鮮兵士の告白

韓景旭『ある北朝鮮兵士の告白』、新潮新書、2006

著者が脱北したある北朝鮮の元軍人に聞き書きした記録。1983年から97年ごろまでの期間の北朝鮮での軍人生活のもよう(この元軍人は途中で脱営してしまうのだが)が描かれている。

語り手の叙述を読むと、軍隊での物資調達はかなりの部分が「盗み」によらざるを得ない状態になっている。例えば部隊で農場を経営する場合も、耕作に必要な牛や肥料は盗みで調達している。しかも窃盗というよりは半ば強盗に近いもの。このような状況は80年代にはもはや常態化していたようだ。もっとも90年代半ばの飢餓状態の時期にも確かに軍内の配給状況は悪くはなっているが、配給が一方的に停止された地域の一般住民に比べるとかなり状況はましだという印象を受ける。

著者は語り手との間にもはや接触がなく、これから追加的に情報を取得することはできないようなのでしかたがないが、まずこういう本の場合、なるべくそれぞれの事件が起こった時期をはっきりさせてほしい。入営や脱営など節目になる出来事の時期は明記されているのだが、それ以外の出来事では時期がはっきりしないものがある。こういうことは資料価値をそこなう。また各兵科ごとの部隊の状況の違いや配属の仕方などの細かい情報にもなるべく言及してほしかった。