アメリカの原理主義

河野博子『アメリカの原理主義』、集英社新書、2006

表題は多少正確さを欠いていて、実際には「アメリカの右傾化と宗教」というような題が適切だろうと思う。ただこのタイトルの方が売れそうだから、まあそれはよしとしよう。内容はアメリカ政治における分裂を文化や宗教に焦点をあてて描いたもので、類書の中ではこの微妙なテーマを一番よく取り扱うことができていると思う。極右、宗教右派新保守主義といった不注意な人(たとえば田中宇)が適当に混同してしまうような次元の違いをよくかみ分けている.

アメリカの文化政治の争点がどういうところにあるか、経済的なネオ・リベラリズムとは違う面での右傾化はなぜ起こっているのか、というテーマについて簡潔で注意深い(ここがこの本のいいところ)展望を与えている。日本ではもともと宗教的、文化的な問題が政治的な争点になっていないので、この問題に関する右派はキチガイ扱いされるような紹介しかされてこなかったから、そういう意味でもこの本は貴重だと思う。できればアメリカの文化的な亀裂が歴史的にどう動いてきたかという巨視的な視点を含めて、この本につけくわえる内容のきちんとした学術書が書かれてほしいと思う。