十字軍の思想

山内進『十字軍の思想』、ちくま新書、2003

十字軍を支えた考え方、エルサレム以外を目指した十字軍についての検討を通じて、西洋世界における十字軍思想の展開を説明した本。十字架標章の携帯、教皇による呼びかけとそれに対する応答、贖宥、特権が十字軍の条件で、これにあてはまるものは広い意味での十字軍にあたるという。カタリ派殲滅のための十字軍は知っていたが、ドイツ騎士団領、対オスマン帝国戦争などもそうした意味での十字軍にあたるというのは初耳で勉強になった。また、十字軍が聖職叙任権闘争と深く関わっていたこと、宗教改革との関連についても教えられるところが多かった。アメリカ建国を一種の十字軍運動と見る見解もおもしろいと思う。欲を言えば、啓蒙主義以降、ロマン主義の一要素に成り下がった十字軍思想がなぜ現代に持ち出されるのかについて、もうちょっといろいろ書いてほしい気もするが。