円と人民元

大西義久『円と人民元』、中公新書ラクレ、2003

中国の金融問題を人民元切り上げ問題を軸に論じた本。金融の専門用語が頻出するが、話の骨組みはわかりやすく、金融専門家でなくてもだいたいの内容は理解できる。

最初に中国経済が日本経済に負の影響を与えているという議論を検証した後、結論部分で人民元が過小評価されていて、それが日本やアメリカの雇用その他に悪影響を及ぼしているから人民元切り上げを図るべきだという主張の妥当性を評価している。著者の結論は、人民元が切り上げられてもそれが日本経済にプラスの影響を与えるかどうかは、個別企業に対してはともかくマクロ的にはわからないとしかいえないというもの。むしろアジア金融危機のような事態が中国で起これば日本経済に与える悪影響は深刻なので、中国経済の安定を重視したほうがよいという結論になっている。著者の議論は実証的で論理も明晰なので、結論もだいたい納得できる。人民元切り上げ問題だけでなく、中国経済と日本の関係を考える際に役に立つ好著。