論衡のはなし

若松信爾『論衡のはなし 一を見て十を考える』明治書院、2001


王充『論衡』の一般向けの解説書。抄訳というよりは抜粋に解説をつけたもの。『論衡』は、一度読んでみたいのだが、全巻読むのはあまりにつらく(全集所収の3巻本)、東洋文庫の抄訳でもいいが、その前にこっちがいいかと思って読んでみた。

非常にわかりやすく、王充という人物や、『論衡』写本の歴史なども載っていて、読んで良かった。

王充は、後漢代の人だが、とにかく頭がよく、一度店頭で読んだ本を丸暗記して、そのまま家に帰って写したというような人。この本は、合理主義の塊みたいなもので、「孔孟はそんなにエライのか」とか、「幽霊が本当にあるのなら、服を着ているのはおかしい」とか、言いたい放題言っている。

『論衡』の中国での評価は、時代ごとに大きく変わっていて、宋代以後は、孔孟に対する批判がすぎたということで、あまり高い評価は与えられていなかった。しかし近代になってから評価が上がってきて、共産党時代には「唯物論の本」として人気があった。実際には、幽霊は認めなくても、妖怪はいるだろうといっているので、唯物論ではないのだが、勝手に解釈されていた。

いまは合理主義があたりまえなので、この本の内容そのものに目新しさはない。しかし、王充という人そのものがおもしろい。この時代では飛び抜けていた人で、「変わった意見は世にはいれられない」と書いているから、そういう人。東洋文庫の抄訳はかなり読む気になった。