月光の囁き

月光の囁き」、つぐみ、水橋研二ほか出演、塩田明彦監督、日活、1999


これは傑作。今までちょっとだけ見て、時間の都合で先延ばしにしていたが、本当にもったいないことだった。

中身は高校生SM。最初は普通の青春恋愛ものに見せているが、ほどなく水橋研二が変態M男であることを暴露される。激昂したつぐみはすぐに振ってしまうのだが、ここからが大事。水橋研二は、「自分は犬だから」と尻尾を振ってずっと食いついていく。つぐみは、別の先輩と付き合いはじめるが、この先輩はただの人。

つぐみは、先輩と普通の恋愛をしたいとか言っているが、ぜんぜん実はそんなことはなく、完全に女王様。水橋研二をガンガンいたぶっているが、これは本物かどうかを試している。特に自分と先輩のセックスを水橋研二に覗かせるところが傑作。もちろん、女王様なので、この嗜虐そのものがごほうび。水橋研二が「これで許してくれるか」と本物の犬視線になっているので、「帰れ」と言ってやるのみ。

この関係がエスカレートして、つぐみは温泉旅館に先輩を呼び出すが、そこにいるのはつぐみと水橋研二。つぐみは滝壺に二人を連れ出し、関係を先輩に暴露した上で、水橋研二に「死ね。いま、ここから飛び降りろ」と命令。

最後の場面は病院。足を折ったくらいで済んだ水橋研二が入院しているところに、つぐみが訪ねていく。つぐみの右目には眼帯。理由はわからない。もはや先輩はいらなくなった。つぐみは、相変わらずの嗜虐プレイで水橋研二をいたぶってから、最後にごほうびに腕を差し出してやり、「ギプス取れたら、海にでも行こか。まるけんも誘うて」という。つまり、治ったら、またプレイを再開するよという宣言。もちろん、このこと自体が究極のごほうび。プレイに終わりなし。女王様は、演技でやってるのではない。

本物のSMはこうですよという話。水橋研二は、M男をやりきっていてすばらしい。つぐみは、AVの人になったが、この映画では初々しいところがいい。素質がある人であっても、いきなり女王様になれるわけではなく、順序があるので、これはマル。

塩田明彦は、これが長編映画としての初監督作というが、文句の付け所がない。わかっている人は早くからわかっている。