鶴見線物語

サトウマコト『鶴見線物語』㈱230クラブ、2005


著者は、奥付によると、1939年生まれ、小田急百貨店江ノ電百貨店に勤務後、1990年に「230クラブ」を設立し、地域の仕事始める、とあるので、郷土史家のようだ。本書の他に、『横浜線物語』、『相鉄線物語』などの著書がある。いずれも同じ出版社になっている。

本書は、鶴見線の前身、「鶴見臨港鉄道」と浅野総一郎らの埋め立て事業から説き起こし、鶴見臨港鉄道と並行していた総持寺と川崎大師を結ぶ「海岸電気軌道線」、戦争と国有化、沿線の様子、乗客減少と減便という、鶴見線の歴史を概観したもの。

鶴見線の乗客が最大になったのは、昭和36年で、その後は減る一方なので、本数も減り、沿線は寂れるばかり。小学生の壁新聞や、沿線住民の思い出の文章などが載っていて、著者の鶴見線愛がうかがえる。

海芝浦駅に美術館をつくるプランとか、鶴見駅から京葉線新木場駅まで半完成の路線を開通させろ(これは現在のりんかい線。でも、なぜ鶴見に・・・)とか、いろいろ好き勝手な妄想ものっている。終わりのほうには、著者が2015年にタイムスリップして、大発展した鶴見線沿線を目撃という白昼夢が。これは笙野頼子『タイムスリップ・コンビナート』から来ているらしい。

鶴見線は、大川支線に乗っていない上、降りたことがない駅がけっこうある。日中は乗りにくいし。去年タモリ倶楽部で、鶴見線で遊んでいてうらやましかった。10年前の本ではあるが、鶴見線近辺には、その昔、鶴見駅に京浜百貨店があったこと、扇島の海水浴場(戦時中に廃止)、戦争中の思い出などなど、いろんなことを覚えている人がいて、この時期に鶴見線の本が出ていてよかった。自分の鶴見線愛もかなりよみがえってきた。