補給戦

マーチン・ファン・クレフェルト(佐藤佐三郎訳)『補給線 ─何が勝敗を決定するのか』、中公文庫、2006


これは名著。16世紀から第二次世界大戦までの「補給戦」の歴史。これだけの長い期間の戦争史を、日の当たらない補給に焦点を当てて書くことは、膨大な文献に当たっていなければできないこと。

ナポレオン戦争の時代までは、軍は補給に振り回されていたというよりは、食料を求めてさまよっていただけ。食料は当然現地調達。しかも手に入れた食料を運ぶことは河川舟運によらなければできないので、軍の移動も河川に拘束されていた。

これが鉄道の開発で変わったのかといえば、そうではないというのが著者の主張。普仏戦争で鉄道は最初の部隊展開以外には役に立たなかった。第1次世界大戦では、補給量は鉄道があってもどうにもならない量になっていた。しかし、弾薬需要が莫大になったために、補給を現地調達に頼ることはできなくなり、補給組織をシステムで整備しなければならないことがはっきりした。

第2次世界大戦では、西方作戦、東部戦線、アフリカ戦線でのドイツ軍と、オーバーロード作戦での連合軍の補給戦が検討されている。西方作戦は短期で終わったので補給が深刻な問題にならなかっただけ。東部戦線やアフリカ戦線では、ドイツは補給問題を解決できなかった。鉄道の輸送量は低く、トラックも不足。アフリカでは港湾の荷役能力が低すぎた。

逆にオーバーロード作戦での連合軍は、困難に直面してはいたが、補給の続く範囲に前進を制限していた。戦線はゆっくりとしか動かず、その分戦争の終結は遅れた。パットンのように補給を無視しようとして部分的に成功した人物はいたが、全体の計画を変えることはなかった。

最後の部分で、著者は補給が戦争を決めるのではなく、補給も計算外の要素で決まっている側面が大きく、補給は戦争の結果を決める多くの要素の1つだと言っている。これだけ調べても一般論を議論することは難しいのだ。