軍隊のない国家

前田朗『軍隊のない国家 27の国々と人びと』、日本評論社、2008


労力はかかっている本。なぜなら、この本が「軍隊のない」としている27カ国(地域)に全部実地に行っているから。ヨーロッパくらいなら簡単に行けるが、この本が取り上げている国のほとんどは離島。しかも、南太平洋とカリブ海が多いのだ。出かけるのも大変だ。

しかし、それだけの労力をかけているにしては、内容はしょぼい。残念。理由は、調べるべきことを間違えている。著者は、「日本の平和憲法がなぜ世界で活かされていないのか」という問題を立てて各国の憲法を調べているのだが、憲法の条文を調べるのだったら、紙かネットでできること。

軍隊不保持を憲法で定めているのであれば、そういう憲法が制定された経緯、軍隊がないことを基準にするのであれば、警察と軍隊の違い、編成や装備、訓練の実態、そういうことを調べていなければいけないと思うが、それはできていない。現地政府の関係者に聞いても「よくわからない」という回答が返ってきていることが多い。せっかく現地に行っているわりにはそれが活かせていない。

結局、著者が「軍隊のない」と言っている国は、ヨーロッパの小国と島嶼国。ヨーロッパの小国は、中世の名残が国家ということになっているだけ。島嶼国は、カリブ海と南太平洋、インド洋にあるが、とにかく隣国が遠い。このカテゴリーに入らないのは、パナマコスタリカコスタリカを軍隊がないと言えるかどうかは疑問だし、パナマが軍隊を持たなくなった経緯は周知の通り。著者は、その経緯についても知らないらしく、パナマが自力で軍隊を持たないことに決めたかのように書いている。

よく知らないのに歩いただけで本を書くのなら、最初から旅行記と言うべき。著者はいちおう大学の先生なのだから、これは情けない。