太平洋奇跡の作戦 キスカ

「太平洋奇跡の作戦 キスカ」、三船敏郎山村聰志村喬ほか出演、丸山誠治監督、東宝、1965


これは傑作。日本の戦争映画もこのくらいできるのか。脚本、演技、画面、いいところだらけ。

キスカ島の日本守備隊を撤収させるという困難な任務を引き受けるのが、第五艦隊司令長官川島中将(山村聰)。川島が、実際に部隊を指揮する戦隊司令官に選ぶのが、兵学校同期の大村少将(三船敏郎)。三船敏郎は、めちゃくちゃカッコイイわ。実績がないので軽く見られているが、決断力のある本物の軍人という役。階級は違うが、同期なので、山村と三船はタメ口だ。これがまたいい。

大本営のイヤミな参謀(西村晃)がいろいろ邪魔したりするのだが、三船の判断は微動だにしない。中間の見せ場は、天候の変化を察知した三船が、一旦出撃した戦隊の撤退を命令する場面。ここで断を下す三船が文句なしのすばらしさ。このことで、苦情を言われても、泰然としているさまも、すばらしい。

キャストは、軍令部総長志村喬、守備隊司令官に藤田進、他に中丸忠雄、稲葉義男、田崎潤平田昭彦など、出し惜しみせずにいい役者を使っており、これ以上は望めない顔ぶれ。軍人の役は、昔の名優でなければかっこよく見えないのだ。末端の水兵でも顔つきが違う。

須崎勝彌の脚本がまたすばらしい。司令官は、変わる状況に応じてどれだけ的確な判断ができるかどうかで価値が決まることをよくわからせるように書かれている。艦長たちの自己紹介で艦名しか言わせないなど、芸も細かい。戦隊がキスカ島に接近するぎりぎりの判断は緊張がみなぎっている。ラストが戦隊の帰還を絵に出さずに、字幕だけで締めているのも渋い。

音楽はこれも團伊玖磨が書いていて、隙がない。監督の丸山誠治は、この後、「連合艦隊司令長官山本五十六」、「日本海大海戦」、「大空のサムライ」を撮った人。偉い。

残念なのは、見たバージョンは、いくつかのセリフがカットされていること。文脈からすると、おそらく「めくら」。そんなつまらないことをしなくてもいいのに。