京都洋館ウォッチング

井上章一『京都洋館ウォッチング』、新潮社、2011


京都にある、近代以後に建てられた建築の写真にコメントをつけた本。洋館とタイトルに入っているが、西洋風建築と限ったわけではないので、平安神宮や銭湯(船岡温泉、さらさ西陣)のような和風の建築も入っている。

ここに掲載されている建物は、たいていは一度は見たことがあるものばかり。地図に場所が出ているのでわかるが、京都の近代建築で今でも残っているものは、非常に狭いエリアに集中している。北大路通堀川通東海道線東大路通の四角形の中に固まっていて、東大路撮のちょっと東にいくつかはみだしているが、それ以外のエリアにはほとんどない。

古い建築を保存しておくのはお金と手間がかかるので、よほどの名建築や目立つ建物以外は、壊されてしまったのだろう。それでも、一日で回りきれるかどうかというけっこうな数があり、京都以外で、狭いエリアにこれだけ近代建築が集中している場所はめずらしいから、見てあるきをするにはほんとうにいいところ。

井上章一のツッコミも当然ながらさえている。これが読みたくてこの本を買ったので、これには満足。

一方、現代建築はあまり取り上げておらず、安藤忠雄若林広幸くらいしか載っていない。井上章一の好みがそうだからなのだろうが、現代建築は他に取り上げている本があるからもういいということなのかもしれない。

この本のあとがきを読んで驚いたが、建築の写真を本に載せる場合には、所有者にあいさつする必要があり(ここまではわかるが)、それが古い社寺の場合には、あいさつというのが菓子折りくらいでは済まず、それなりの「お布施」を持っていかなければならないという。京都の古い寺や神社は拝観料やら何やらで相当もうけていると思うが、そこまで強欲なものか。

著者は、そういう手間がめんどうで嫌なので、その手間が少ない近現代建築に限定して、この本を書いたと言っている。世の中、おかしなことがいろいろ転がっているのだ。