福田恆存

川久保剛『福田恆存』、ミネルヴァ書房、2012


ミネルヴァ日本評伝選」の一冊。きちんと書かれている。

福田恆存は1912年(大正元年)生まれで、1994年(平成6年)に亡くなった人。評論はいくつか読んだことがあるが、肝心の劇作家、翻訳家としての仕事をほとんど知らなかった。非常にためになった。

基本は劇作家だから、その世界で基礎を築いた人。副題は「人間は弱い」となっているが、その認識があるから、進歩思想には反対であり、国語改革にも反対した。

保守の知識人だが、知識人が進歩思想だらけで、保守などまともな思想扱いされていなかった時に、ひとりで孤塁を守って保守思想を貫いた人。進歩思想には正面から「考え方の基盤がおかしい」と批判していたが、進歩思想の側からはほぼ無視されていて、あまり論争になっていない。

おもしろいのは、巻末に載っている三島由紀夫との対談。三島が「自然は観念。日本の自然、ドイツの自然、フランスの自然はみな観念」だと言っているのに対して、福田は「自然は根源、生命力の根源。日本人も、自分も、自然の分枝にすぎない」と言っている。

自然は人間に先立っているから、人間は自然に従わざるを得ないし、国家やその他の制度は人間が作ったフィクションだから、逆にフィクションとして大事にしないと壊れてしまう。だから、フィクションとして制度を尊重するという考え。これは保守主義の直球。

戯曲、時論、国語論がちゃんとつながっていて、一貫した道になっていることはわかった。これ以上は戯曲をちゃんと読むしかない。

この「ミネルヴァ評伝選」、刊行予定のものも含めたリストが巻末についているが、300冊以上出版される計画で、著者もちゃんと選ばれている。上古の人物から同時代人まで、カバーされている人物の幅が広いので、これは読むのがたのしみ。