戦いの世界史

ジョン・キーガン、リチャード・ホームズ、ジョン・ガウ(大木毅監訳)『戦いの世界史 一万年の軍人たち』、原書房、2014


BBCTVシリーズ「戦いの世界史」の制作にあたって出版された本。原著は1985年刊行なので、古い本ではあるが、今読んでもあまり古さを感じさせない、非常に有益な本。最新事情の解説ではなく、過去(古代やそれ以前にさかのぼる)から現在までの戦争を俯瞰しているので、現在読んでも十分に価値がある。

この本が類書と違っているところは、章立てが編年体ではなくて、戦争のさまざまな要素を取り出して、テーマ別に戦争の歴史を語っているところ。
章立ては、
「序章」
「戦いの表面」
「士気」
「歩兵」
「騎兵」
「砲兵」
「戦車」
「衛生」
「工兵」
「空軍」
「司令官」
兵站
「非正規軍」
「戦争体験」
「終章」
となっている。陸軍と空軍(陸軍への支援任務だけに限定)で、海軍の話は出てこない。それは話が別なので同じ本にはできないということ。しかし、これだけのテーマで組織的戦争が行われたほとんどすべての時代にわたって本を書くというのは、恐るべき碩学でないとできないこと。

著者のジョン・キーガンは著名な軍事史家で、リチャード・ホームズは同じく軍事史家、かつ本職の軍人だった人だから、このような本が書けてもおかしくはないが、戦争をここまで俯瞰的に知っている人は、今の日本には少なくとも見当たらないし、現在の専門分野化した歴史学にはほとんどできないこと。歴史学が人文学の王だった、昔の時代の人にのみ可能な特権的な本だろう。

訳注は非常にていねいでわかりやすい。監訳者もこの分野では著名な人だから安心して読める。380頁程度の厚い本だが、あっという間に読み通せる。