将軍権力の発見

本郷恵子『将軍権力の発見』、講談社、2010


講談社選書メチエの「選書 日本中世史」の3巻。ここでいう「将軍」は室町将軍のこと。

鎌倉時代末から始まって、だいたい足利義満から義教あたりまでの時期を扱う。主な注目点は、この時期、特に細川頼之管領だった時期の「官宣旨」「太政官符、牒」という文書形式とその意味について。

この時期に、官宣旨、太政官符が大量に発給されている理由は、それが京都の室町政権から、遠隔地、特に関東に対して出されていたことに意味があるという。室町幕府は関東に対して直接文書で命令できるような権威を持っていなかったので、京都にしかない朝廷文書の形式をかりて、自らの権威を示していたということ。南北朝の争いがようやく収束してきた時期になって、やっと室町幕府は、全国に対して自分の権威を示すための配慮と余裕を持てるようになった。

細川頼之は、畿内を幕府が直接支配する領域として固めていったが、他の地域、関東、九州、中国については、それはできず、地域全体に影響を及ぼすことができる勢力を認めて、その勢力にある程度、地域経営を任せるしかなかった。しかしそのおかげで内乱は収束し、社会が安定することを通じて室町幕府の権威も強まった。

禅宗寺院と武家の関係や、五山十刹制による禅宗寺院の組織化、有職故実を頼って生き延びていく公家勢力のあり方など、勉強させられたこと、多し。