世紀の合唱 愛國行進曲

「世紀の合唱 愛國行進曲」、瀧澤修、藤原釜足ほか出演、伏水修監督、東宝、1938


海軍軍楽隊の人で、行進曲「軍艦」、愛国行進曲の作曲者、瀬戸口藤吉の伝記映画。

最初にばばーんと「国民精神総動員」と大写し。瀬戸口陶器を演じるのは滝沢修である(映画の中での表記は旧字体)。

非常にわかりにくい映画で、瀬戸口藤吉が何をして、どういう経歴をたどったのか、映画を見てもよくわからないのである。海軍軍楽隊に入隊し、軍艦マーチの作曲をしたということはわかるのだが、その後除隊、帝大のオーケストラ(画面では室内楽の規模くらいしかない)を指導したり、ラジオ局(NHK)で楽譜の整理をしていたことが断片的に描かれるだけ。

この人、出身地の垂水市のHPにある年譜でも、海軍除隊後、愛国行進曲を作曲するまでの活動はごっそり抜けているので、この部分はもともとよくわかっていないのか?
http://www.city.tarumizu.lg.jp/izin/setoguchi/ryakureki.htm

しかし、この映画の製作時、瀬戸口藤吉は存命だったのだから、本人には聞いているはず。このへんはなぞ。

楽器の改良とか、子供への音楽指導など、あまりお金になりそうもないことには熱心で、自分の体の不調にもあまりかまわなかった人。それでも昔の部下には「楽長、楽長」と慕われている。

とうとう体を壊して倒れてしまうのだが、支那事変の最中なので、小学生らが「先生、ありがとう」と家の軒先まで、軍艦マーチを演奏しに来る。小学生がどうやって楽器を手に入れたのか?

日独伊防共協定ができたばかりなので、日独の軍楽隊は、「ホルスト・ヴェッセルの歌」と軍艦マーチを互いに演奏。ヒ総統もご満悦だ。これはおもしろい。

ドイツとイタリアには、ナチ党とファシスト党を湛える歌があるのに、日本に同じものがないのは不都合だ、という昔の部下の話に発奮した瀬戸口は発奮して作曲に邁進。それはいいが、滝沢修はさすがにピアノまでは弾けないから、ピアノの音と鍵盤を叩いている画面がぜんぜん合っていない。

ファシスト党の歌をピアノで弾いては、感動を新たにする瀬戸口。さらに作曲に励むが、どうも気に入った出来にならない。苦心惨憺、ついに完成した曲は見事「愛国行進曲」の作曲コンクールに当選。国民は津々浦々で、愛国行進曲を歌うのでした。

「世紀の合唱」という題なのに、合唱は愛国行進曲のところでちょっと出るだけ。ほかは全部器楽だ。瀬戸口藤吉の曲で歌詞があるものはたくさんあるので、もっとかけてくれればいいのに。

しかも、監督は音楽のことはあまりわかっていないようで、演奏があまりよくない上に、複数の曲を適当に重ねて流しているので、聞きにくいことこの上ない。音楽映画として、これはまずいでしょ。

主演の滝沢修は、1906年生まれなので、この映画が公開された時点で32歳。これで71歳まで演じている。さすがに71歳には見えないが、50代くらいには十分見える。しかも頭はほぼハゲなので、それっぽい。もともと老けて見える人だったのね。