日本はなぜ敗れるのか

山本七平『日本はなぜ敗れるのか ─敗因21ヶ条』、角川oneテーマ21、2004


これまで山本七平の本を読んだことがなかった。昔、山本の著作がよく読まれていた時には、毀誉褒貶の激しい人なので敬遠していたのだが、この本は読まれるべきもの。

小松真一『虜人日記』にコメントする形で、太平洋戦争における日本の敗因を分析する本。小松真一と著者は、ともに大戦末期にフィリピンで従軍しており、小松は軍属、山本は陸軍少尉、小松がいたのはネグロス島、山本がいたのはルソン島という違いはあっても、状況は似たものであったようだ。ともに、捕虜となり、戦後帰国した。

小松が『虜人日記』で挙げた、日本の敗因21ヶ条を、山本が自分の体験を込めながら読み解いていくというスタイル。書かれているのは、もはや軍隊が軍隊としての体をなさず、まったく戦争ができていなかった(武器弾薬は絶対的に不足、食料なし)日本軍の姿。

これが、単に「物量の不足」という事実だけを表すものではないことを、なぜ物量が揃わなかったのか、なぜ揃えようとしなかったのか、揃わないという事実を軍はどのように認識していたかといったことから、キリで揉み込むように、日本の敗因を暴いていく。

最初の章は、「バシー海峡」である。小松の挙げた21ヶ条の敗因の中に「バアーシー海峡の損害と戦意喪失」という項目があるので、ここから話をおこしているのだが、台湾とフィリピンの間の海で、どれほどの兵員、装備、資材が沈んだか、バシー海峡アウシュビッツに劣らない抹殺装置として機能していたことが長々と書かれている。

問題は、バシー海峡でほとんどの船が沈められてしまい、いくら兵員、装備、資材を送り込んでも、それらは海に投げ込まれるのと同じで意味が無いことを知りながら、「成果が上がらないことを知りながら、その方向に量だけを増やして、同じことを繰り返すことがそれを克服する方法だ」と信じこんで同じことをやりつづけた日本軍の体質にある。一事が万事、この調子で、現に戦争に負け続け、今までの方法が通じないことはわかっているのに、なぜか方法を変えない、変えようとすると「敗北主義」扱いされてしまうという日本軍のパターンが如実に現れている。

この本が名著である理由は、この本で書かれている日本軍のやり方が、戦後日本になってもまったく変わっていない、日本社会のやり方そのものだからである。太平洋戦争のことを描きながら、戦後、つまり現在の日本社会を描くことになっている。きちんつぃた計画を立てず、計画がだめなことがわかってもやり方を変えず、とにかく気合で押し切れ、できないのは気合がたりないからという思考法。これは今に至るまでほとんど変わっていない。

太平洋戦争で負けただけではない。ある意味、日本は負け続けだ。結果としてボロが出ずにすんだ分は歴史の上から消え去っていて、何事もなかったことにされているのみ。社会や組織は一度破綻したくらいで簡単に変われるものではないのだ。