秘宝館という文化装置

妙木忍『秘宝館という文化装置』、青弓社、2014


今年の3月で、佐賀にあった「嬉野観光秘宝館」が閉鎖されたのだが、それとほぼ同じタイミングでこんな本が出た。というか、「秘宝館」などという、今どきネタにしかならないような施設を、研究対象にしている人がいるということにおどろいた。そんなものは、変なもの好きの、都築響一氏くらいしかいないだろう(この本にも当然クレジットがある)と思っていたら、強者は他にもいたのだ。

著者は1977年生まれということなので、秘宝館がいちばん流行っていた頃のことはリアルタイムでは知らない人。この本では、2005年から秘宝館研究を始めたと書かれている。これは、この分野に手を付けられる最後のタイミングで、すでにこの時点で秘宝館というものは7つしか残っていなかった。その後も、潰れつづけて、2014年4月時点では全国に2つ(熱海と鬼怒川)しかない。

こういうネタ施設(しかも内容がエロ)は、記録がほとんど残らないし、施設が潰れれば内容物はすべてスクラップにされてしまうのが普通なので、なくなったらそれっきりである。それでもこの本の注を見ると、吐夢書房編『秘宝館─日本が生んだ世界性風俗の殿堂』、オハヨー出版、1982、などという酔狂な本が出版されていたことがわかるし、村上賢司や笹谷遼平という人が秘宝館の映画(見ていないので分からないが、たぶんドキュメンタリー)を撮影していたことも書かれている。

この本には「秘宝館研究の今後の発展」云々と書かれているが、こういうものなので、今後この分野で何かを書かれる可能性はほとんどないだろう。実物を見ていないと話にならないからだ。そういう意味では、この本は非常に貴重な本。都築響一の『精子宮』は写真集で、秘宝館の歴史を調べた本ではないし、図書館に入る可能性があるのは、この本くらい。

はっきり言って、あまり分析的な本ではない。というか分析部分はそんなにおもしろくない。しかし、秘宝館の展示物、特に等身大の人形ギミックに焦点をあてて、製作者のところに行ってインタビューを取っていることはありがたい。またそれぞれの秘宝館の歴史や、入館者の統計(一部の秘宝館が限られた期間に取っていただけだが)が掲載されていることは非常に有益。この本は、歴史の記録としてかけがえのない価値がある。巻末に「秘宝館オリジナルソング」(伊勢、熱海、東北サファリパーク)の歌詞が載っているのはすばらしい。伊勢国際秘宝館のコマーシャルは関西地区では、ガンガン流れていたが、8番まであったとは知らなかった。

写真も豊富で、著者は、秘宝館の何がおもしろいのかをよくわかってらっしゃる方。まあ、この本自体が、秘宝館への弔辞のようなものだ。熱海もだが、鬼怒川の秘宝館には、まだ残っているうちに行っておかなければ。