原発ホワイトアウト

若杉洌『原発ホワイトアウト』、講談社、2013


去年の出版時に話題になった、霞ヶ関の中の人(当然ペンネーム)による「小説」。

原子力ムラがどういう仕組みになっているのか、誰がどのように権力を動かしているのか、を非常にわかりやすく書いた本。小説という形式にはなっているが、登場人物のキャラクターや電力会社、政治家、役所の名前等々に至るまで、ほとんど実録で、それにフィクションの味付けをしたというもの。

電力会社というのは、こんなにすごいのかとひたすら圧倒させられる。日本の電力料金が高いのはちゃんと意味があるので、電力料金の一部は会計を操作して、電力会社の自由にできるようになっており、それが政治家、役所、マスコミなどあらゆるところに回って、利権共同体を形成しているという話。総括原価方式によって、高い電力料金を下げなくてもよい仕組みが出来上がっていて、そこに寄生している人たちは、このおいしい仕組みを絶対に壊さないようにあらゆることをやっている。原発は、この大きなシステムの中核的な部分品。

「鉄の三角同盟」というのは昔から言われていたことだが、実物の細かい襞をここまで詳細に描いた本はなかっただろう。落選議員に対する丁寧な面倒見や、マスコミがどうやってコントロールされているかについての記述には、権力維持のシステムがここまで精密にできているということに感動すら覚える。

当然このシステムは、政権トップとつながっているから、検察、警察という実力機関を動かすことができ、役所の内部告発でもあれば、速攻で潰してしまえるようになっている。資源エネルギー庁のスキャンダルをリークする課長補佐と、その手引をするジャーナリストによる秘密保全の方法と、それが警察が動くことであっさりと破られてしまうくだりのも感心。権力が本気で動けば、個人の秘密などないも同然だ。

原発があっさり再稼働し、その後に中国が北朝鮮のエージェントを操って原発テロを仕掛けてくる部分は、オチとしてよくできているし、日本の原発セキュリティなど、実際にはないも同然ということがわかる。

とにかく強烈なインパクトのある本。当然霞ヶ関では犯人探しをやっているそうなので、著者が無事であることを祈るばかり。