昭和怪優伝

鹿島茂『昭和怪優伝 帰ってきた昭和脇役映画館』、中公文庫、2013


これはすごい本。俳優メインの映画評論だが、俳優のセレクションがすばらしすぎる。

荒木一郎ジェリー藤尾岸田森佐々木孝丸伊藤雄之助天知茂、吉澤健、三原葉子川地民夫芹明香渡瀬恒彦成田三樹夫の12人。わたしはこの中で、荒木一郎佐々木孝丸、吉澤健は、まったく見たことがない。それでも他のメンバーだけでおなかいっぱい。芹明香って、誰だよと思っていたら、「マル秘色情めす市馬」の主演女優だった。いちいち目の付け所がするどすぎる。

それも道理で、著者の映画歴はおそろしく、1965年から75年の東映ヤクザ映画、日活ニューアクション、日活ロマンポルノといったプログラムピクチャーを山のように見ているのだ。今は、CS放送やDVDがあるから見ようと思えばある程度は見られるのだが、リアルタイム(著者が見ているのは、二番館、三番館だが)で見ていると、同時期にどういう俳優がどういう役柄で出ていたのかをきちんとフォローできるので強い。今、CS放送で見ても、ポツリポツリとしか見られないので、俳優やスタッフの印象がなかなか固まらないのだ。

この本は、それぞれの俳優が出ていた一番おいしいところは、どの映画なのか、前後でどういう映画に出ていたのかをちゃんと把握している。成田三樹夫だったら、「兵隊やくざ」にはじまって(これはチョイ役)、「新兵隊やくざ」、「兵隊やくざ大脱走」が続き、テレビの「土曜日の虎」、日活の「新宿アウトロー ぶっ飛ばせ」、東映仁義なき戦い 広島死闘編」、「仁義なき戦い 代理戦争」、「柳生一族の陰謀」と続いている。しかも著者は、成田三樹夫をデビュー作の次、「犯罪教室」をリアルタイムで見ているのだ。これはうらやましすぎる。

ジェリー藤尾なんて、どこがいいのかと思ったら、著者は希少な傑作をちゃんとフォローしているのだ。とにかくたくさん見ているのは強いし、資料にもよく当たっている。以前、寺脇研の日活ロマンポルノの本に驚いたが、同時代に日本映画を集中的に見ていた人は、ロマンポルノはちゃんと見ていたのだ。

著者が目をつけている俳優は当然これにとどまらないので、またキャストを変えた続編が出るだろう。これはたのしみでしかたがない。