太平洋の鷲

「太平洋の鷲」、大河内傳次郎柳永二郎、二本柳寛ほか出演、本多猪四郎監督、東宝、1953


山本五十六の伝記映画。当然、「連合艦隊司令長官山本五十六」よりこっちが先である。白黒。

大河内傳次郎は、時代劇しか見ていなかったが、これははまり役。三船敏郎よりこっちの方がはまりのような気がしてきた。威厳があり、黙っている時の存在感も抜群だ。

本多猪四郎円谷英二コンビの第一作で、特撮部分も多いのだが、肝心なところは、「ハワイ・マレー沖海戦」からの流用。また冒頭のクレジットに「フィルムを米極東空軍から借りました」とあって、米軍機の映像もそれなりに使っている。それでも空母艦上の場面は、実物大セットを組んでおり、飛行機も当然1/1。これはかなりの迫力。

三船敏郎が、「飛龍」攻撃隊の友永大尉役で出ていたり、陸軍参謀で志村喬が出ていたり、俳優はたくさん登場。さすがどの演技にも隙がない。

脚本は橋本忍で、冒頭に、「この戦争の過ちの原因を考えなければならない」という趣旨の字幕が出てくるし、最後の場面の字幕は、
「幾万幾十万の人も
また帰らない
国と国とが精かぎり
根かぎり戦って
何を生み出そうと
云うのか
破壊の外…それは
何ものも生み出さない」
というまともに戦争反対メッセージになっている。

映画の構成も、戦争前に日独伊三国同盟に山本が反対した経緯(米内光政を演じているのは柳永二郎)にかなりの時間が割いてあって、対米戦に反対したが心ならずも陣頭に立たざるを得なくなった悲劇の提督、山本五十六というつくりになっている。これは三船敏郎主演のものも路線としては同じなので、山本五十六国葬に付された英雄から、悲劇の英雄として戦後も生き延びた理由の一端がわかる。