雑巾がけ

石川知裕『雑巾がけ 小沢一郎という試練』新潮新書、2012


小沢一郎の秘書で、衆議院議員、現在刑事被告人の著者が、小沢一郎の秘書だった時期のことを書いた本。政治家の秘書と言ってもいろいろな人がいるだろうが、小沢一郎のところは文字通りの「雑巾がけ」である。

まず「秘書」になる以前に「書生」として住み込む。やる仕事はすべての雑用。本当の雑巾がけだ。もちろん住み込み。しかも、仕事が終わってから、先輩秘書たちとの飲み会が始まる。この準備や片づけも書生の仕事。これでは、ろくに寝る暇がない。給与はもちろん支払われるが、年収192万円。バイトと大して変わらない。

著者は1年書生をつとめて、秘書になっているが、変わったことといえば「秘書」としての名刺が持てるようになったことくらい。仕事は来客の応対、選挙の仕事、これもなんでも屋だ。

読んでいて興味深いのは、あきらかにまったく割に合わない仕事で、しかも非常に仕事の内容がきつい。これでも辞めないのは、政治家になるという野心があることはもちろんだが、小沢一郎という人物にそれだけの魅力があるからだろうと思っていたが、前者はともかく、後者については、そういうものはないらしいということ。

小沢一郎は、秘書に対してほとんど親愛の情を見せたり、物事の説明をしたりしないし、八つ当たりや理不尽な怒りもしょっちゅうぶつけてくる。当然、秘書も書生もどんどん辞めていく。著者は、それでも残ったのは、「ここでやめたら負け犬」と先輩秘書から諭されたからと言っているが、尋常な神経で続けられることではない。

また筆頭秘書と小沢一郎の関係も微妙で、筆頭秘書が代議士になった後で結局喧嘩別れになり、人間関係もすべて切れてしまったりする。著者は、小沢一郎は「信じて用いる」という意味で部下を信用はするが、「信じて頼る」という意味では部下に頼ることはないと言っているが、納得させられる。

著者が代議士になる過程やなってから後(裁判の話はこの本には書いていない)のことも書かれていて、政治家秘書と政治家を両方経験した人ならではの興味深いエピソードが詰まっている。読んでみて、これは、政治家を家業として親から継ぐ人はともかく、そうではない人がこの職につこうとすることはあまりないだろうと思える。