物語・軍歌史

坂本圭太郎『物語・軍歌史 音楽の中の戦いのうた』創思社出版、1984


著者は大正9年生まれ、海軍軍楽隊に入隊し、復員後は福岡銀行に入行、その間ブラスバンドにずっと関わっていたという経歴の人。この本は、博多の雑誌『うわさ』に連載されていた記事をまとめたもの。2段組で、500ページ弱あり、1ページ当たり2曲か3曲の軍歌が歌詞つきで載っている。

たぶん1000曲くらいは収録されている。当然、有名な歌だけではなく、部隊の歌、国民歌謡、懸賞募集歌、満州の歌、等々幅広くカバーしている。というか、ほとんど知らない歌ばかり。また、レコード化されていない歌が多いので、YouTubeで検索しても出てこない歌が多い。

この本に載っている歌をリアルタイムで聞いている人には、タイトルと歌詞(一部)と少しのエピソードで十分に内容を思い出せるのだろうが、知らない者にはそれは無理。音源がないとちんぷんかんぶんである。それでも、YouTubeからはけっこう拾ってこられる曲もあるので、それだけはかろうじてわかる。

基本的には、通読するよりも、辞書のような本として使うべきもの。しかし、細かいエピソードにはけっこう見逃せないものが多く、陸軍は軍歌を全部暗唱できるまで覚えさせたが、海軍は歌詞が収録された本を見ながら歌えばよかったから、歌詞を暗誦する必要がなかったことなど、この本で初めて知った。

面白かったのは、著者が釜山を訪問した際に現地の消防音楽隊が演奏した曲が軍艦行進曲だったという話。その前に、中曽根・レーガン会談でアメリカ軍の軍楽隊が軍艦行進曲を演奏して、日本人記者が大騒ぎしていたという記述があるので、80年代になっても、韓国ではこの曲が政治的に問題とされるようなことはなかったことがわかる。