ガタロさんの描く町

ETV特集「ガタロさんの描く町 清掃員画家のヒロシマ」、NHKEテレ、2013.8.10


教育テレビでやっていたこの番組、いろんな意味でおもしろかった。登場する「ガタロさん」というのは、基町アパートの半地下にあるショッピングセンターの清掃員。このショッピングセンターは、ほとんどシャッター通りと化していて、開いている店舗が非常に少ない。基町アパートそのものは、だいたい満室で募集もほとんど行なっていないので、住民は近場のスーパーに流れているのだろう。

この商店街には4箇所トイレがあり、その掃除がたいへん。これがガタロさんの主な仕事だ。掃除道具は、廃品を拾ってきたり、商店街の店のお古をもらってきたもの。朝4時から、午前中まで、週6回掃除が続く。月給15万円なので年収180万円。生活、たいへんだなあと思っていたら、なんとガタロさんは結婚していて、奥さんは看護師。だったら2人合わせればそれなりの収入になるはずで、そんなにたいへんな生活じゃないんじゃないのか、と思っていたが、それはテレビに映っていた範囲の話。

このガタロさんの長文インタビューが都築響一メールマガジンに載っていて、そちらを見ると生い立ちや、なぜこの仕事につくようになったのかが書いてある。ガタロさんは若い時から体調不良で体が動かないことがよくあり、職を転々としていたのだが、この仕事についてからは、「できる範囲で続けてくれればいいから」と言われてずっと続けている。もう33歳の時に清掃員になり、もう30年間続けている。

このテレビやメールマガジンにガタロさんが出ているのは、この人が仕事が終わった後で描いている「絵」が理由。この絵がおもしろい。画題は、自分が使っている掃除道具、ホームレスの「Sさん」、原爆ドーム、町の風景など。うまくはないが、非常に迫力があり、何より描く対象に対する愛情がうかがえる。市の現代美術館の公募には落ち続けていて、それが癪に障るので、単独でゲリラ展覧会を公園や路上でやっている。原爆忌には、自作のオブジェをかぶって、「原発廃炉」を訴えている。これは速攻で警官が職質に来てつまみ出された(この職質の件はテレビではカット)。

この人の作品、生活、基町アパート(もとは原爆スラム)という環境の3つの要素が合わさって、非常におもしろい作品になっている。作品の展覧会が、鞆の「鞆の津ミュージアム」で行われているので、これは見に行こう。もともとは、これもNHKEテレの「ハートネットTV」で取り上げられ(これは見ていない)、その反響があったので、番組が再制作されることになったのだという。やはりテレビの威力は強大だ。Eテレといえども全国放送だし。おかげで、ガタロさんの絵をいろいろ見られてよかったが。