夕凪の街 桜の国(2007映画版)

「夕凪の街 桜の国」、田中麗奈麻生久美子堺正章ほか出演、佐々部清監督、「夕凪の街 桜の国」製作委員会」、2007


原爆もの映画。原作は読んでいない。この映画、取るべきところがないわけではないが、客の涙を絞るために無理やりな演出が過ぎるし、悪い意味で広島に媚びすぎている。原作は非常に世評の高いマンガだし、映画には映画的演出というものがあると思うので、この作品で原作の出来は推し量れないが、映画はいろいろやりすぎ。

特に前半の「夕凪の街」では、麻生久美子が、太田川の河畔で恋人と弟に看取られて死ぬところがあきらかにやりすぎ。麻生久美子の芝居はそれなりに抑えた演技で、よくやっていると思うが、人の死を妙にドラマチックにしようとして無理なことをさせすぎている。麻生久美子の妹が、背中に背負われて死ぬところも同様。人が死ぬところを見せつけるやり方があざとすぎる。

後半の「桜の国」は、悲愴感がない分、よくわからないことになっていて、特に被爆者差別に反対する説教のようになっているのがとりわけいけない。堺正章が、姉の昔の知り合いを訪ねて歩いているのは説教のためではないのに、視点が田中麗奈とその友達で田中麗奈の弟の恋人でもある中越典子に置かれていて、中越典子がらみのエピソードは被爆者差別はいけませんという露骨なアピール。こういうものは、被爆者団体とか、反核団体とか、それらに無批判に同情している人には受けるかもしれないが、話がそうかんたんではないことは、ちょっと考えれば誰でもわかる。

田中麗奈の弟は昔喘息だったという以外何も問題がないような描き方がされていたりするところは、「では本当に原爆症に由来する病気だったらどうなるのか」ということになるし、本人が説教めいたことを言わない分、演出がはっきり言わないような形で見るものにメッセージを押し付けている。非常に不快。

原爆スラムでの生活など、見るところはあるが、それでも「仁義なき戦い 広島死闘篇」は本物を使ってロケをしているのだから、その迫力には到底及ばない。「被曝地蔵」も不自然すぎる。だいたい基町アパート付近の河畔にそんなものはないし。

最後のシーン、平和公園の折り鶴のモニュメントで子供たちが祈っている場面が説教の頂点。言いたいことというものは、もうちょっと抑えて反射光で見せれば説得力もあるかもしれないが、しつこくメッセージを投げられても興ざめするだけである。