君よ憤怒の河を渉れ

君よ憤怒の河を渉れ」、高倉健中野良子ほか出演、佐藤純彌監督、永田プロ、大映映画、1976


これはいろんな意味でむちゃくちゃな映画だが、とにかくむちゃくちゃにおもしろい。

検事の杜丘(高倉健)は、強盗傷害と窃盗の濡れ衣を着せられて、いきなり追われる身になった。追いかけるのは検事正の池部良と、警視庁捜査1課の矢村警部(原田芳雄)。杜丘は、自分をはめた伊佐山ひろ子を追いかけて石川県に飛ぶが、伊佐山ひろ子は死んでいた。これで杜丘は殺人犯になり、警察は総出で杜丘を追いかける。

杜丘は、伊佐山ひろ子のダンナでこれも自分をはめた田中邦衛を追いかけて北海道へ。そこで地元の大富豪の娘の中野良子と出会ってデキてしまう。いったんは、中野良子の父親(大滝秀治)に警察に売られかけた杜丘だが、結局大滝秀治の計らいで、飛行機で逃げることに。

杜丘は、飛行機の操縦はできないのだが、大滝秀治は、「度胸と慎重さがあればだいじょうぶ」とか、非常に無責任なことを言っている。飛行機なんて、素人がその場で教わって適当に飛ばせるわけないだろう…。杜丘は、おおざっぱな日本地図で自分の位置を確かめているが、そんなものでわかるわけない。だいたいどうやって降りるのか。おまけに杜丘が飛行機で逃げたと知って、自衛隊の戦闘機が追いかけてくる。犯人が逃げだしたくらいのことで、自衛隊は出ませんから。

杜丘の飛行機は大洗の沖にあっさり着水。そこから奥多摩に潜入した杜丘は、トラックの荷台に隠れて新宿へ。そこに来ていた、中野良子と会おうとするのだが、新宿は警戒厳重で動けない。そこにいきなり馬の大群が現れた。ほんとに新宿西口を馬が暴走してるんですが…。こんなのよく撮影許可が出たなあ。

杜丘逃走の裏には代議士自殺事件の裏があると睨んだ矢村警部は、このへんから杜丘に協力するようになり、中野良子のホテルの部屋に隠れていた杜丘に、田中邦衛が入っている精神病院の情報を教える。杜丘は、中野良子に連れて行ってもらって、精神病院に潜入。しかし、そこは悪徳医師の岡田英次が、自分で開発した「神経遮断薬AX」を使って、患者を廃人にしまくっている恐怖の病院。もちろん、杜丘も捕まってしまって、AXを投与されてしまう。

独房みたいな閉鎖病室に入れられ、屈強な看護人に毎日AXを飲まされて廃人にされかける杜丘だが、飲まされたふりをして、看護人がいなくなったすきにゲロゲロ吐いて無事だったのでした。でも、この薬、錠剤ならともかく散剤だし、少量の水で飲まされているので、嘔吐しようとしても無理なのでは?

この岡田英次の背後にいるのが、政界の黒幕で右翼の西村晃。「左翼なんかこの薬でどんどん精神を矯正してやれ」とえらいいきおい。代議士は、この薬の人体実験を知って、ゆすりにかかったところを、逆に薬を飲まされて飛び降り自殺に見せかけて殺されていたのだ。

杜丘も遺書を書かされて、殺されようとしたところで、いきなり「真相がわかったぞ」と言い出す。看護人にビルの屋上から投げられそうになったところで、矢村警部と部下が登場。進退窮まった岡田英次は自分で屋上から飛び降りて自殺。

西村晃のところに出向いた、杜丘と矢村だが、真相を追及しても、「それがどうした証拠はあるのか」と開き直られる。矢村警部は、「じゃあおまえ、飛び降りろ」と西村晃を痛めつけ、さらに杜丘が拳銃を一発。さらに矢村が拳銃をバンバン撃ちこんで、「こんなヤツ、百発撃ち込んだって、正当防衛なんだよ!」と言い放つ。あんたらねぇ。

結局検察、警察の話し合いで、西村晃の死亡は「正当防衛」で解決。杜丘は、中野良子といっしょに、検事を自ら辞めて去っていくのでした…。

2時間半くらいはある映画だが、まったく飽きない。高倉健はもちろんかっこいいが、原田芳雄がまたかっこいい。検事正の池部良、悪役の西村晃やら、岡田英次やら、もちろん中野良子大滝秀治もすべての役者のキャラが立っている。あとは、飛行機、馬の大群、精神病院など、見せ場もてんこ盛り。西村晃を射殺した後の原田芳雄の台詞も大笑い。この映画は中国でウケたそうだが、「法律なんかクソ食らえ」というこの映画の筋からすれば、それも納得。

考えてみれば、この時期、高倉健佐藤純彌は、「新幹線大爆破」「人間の証明」「野性の証明」とヒット映画を連発していたのだ。まあ、勢いというものはおそろしい。