監督失格

監督失格」、平野勝之監督、カラー・コイノボリ・ピクチャーズ、2011


AV女優で2005年に亡くなった林由美香と、この映画の監督本人の関係を撮影したドキュメンタリー。公開時には見られなかったのだが、いま見られてよかった。

前半は、平野勝之林由美香と恋人関係だった時(平野は既婚者なので不倫)に、2人で北海道に自転車旅行したところを撮影した「自転車不倫野宿ツアー 由美香」(1997)を再編集したもの。林由美香のやっていることはとにかくめちゃくちゃで、酔っ払っては寝てしまい、そのまま失禁している。2人はケンカの繰り返し。

その自転車旅行からおよそ10年後、2人の恋愛関係はもはや終わっているが、林が平野に電話やメールでいろいろと相談を持ちかけたりしていて、人間関係自体は続いている。しかし平野勝之は、林由美香以上の撮影対象が見つからないと言っていて、映画はろくに作っていない。

2005年に平野はまた林を撮影して映画を作ろうとするのだが、そこで事件。誕生日に撮影することになっていたのだが、林は現れない。仕事をすっぽかすことはなかったので、心配した平野が林の家に行き、部屋の合鍵を持っている林の母親に来てもらって部屋に入ると、林由美香は死んでいました。

林由美香の死体を発見するところでは、もともと撮影のためにカメラを持って行っているので、部屋の鍵を開けて中で死体を発見し、母親が携帯電話で号泣、警察が呼ばれるところまで、すべてカメラが回っている。この「近い人間の死にいきなり立ち会ってしまった人々」を映している映像がリアル。初夏の蒸し暑い時期なので、死体は腐敗し始めていたようで、新聞受けの穴から臭いがしていて、平野が最初に部屋に入り、見た途端に「警察呼んで」と言っている。

死因は、酒と睡眠薬オーバードーズ。葬式の様子は静止画になっているが、これはこれでさらにリアル。林由美香の棺を担いでいるのは、林由美香のかつての交際相手たち。平野自身や、カンパニー松尾林由美香が亡くなった時点で付き合っていたらしい若い男の姿もある。

平野はダメージのあまりの大きさにもはや映画の仕事ができなくなる。また、死亡前後のビデオについて、林由美香の母親が、「娘の死に平野が関わっている」と疑念を抱いたことで、ビデオは約束で封印されてしまう。

それから5年たって、林由美香をまだ忘れられない平野と、林の母親は連絡を取り続けていて、母親がビデオの利用を許諾し、平野も自分自身の気持ちに決着をつけるためにビデオを編集して映画をつくることにする、というのが後半。ラスト、監督が自転車で夜の街を走りながら号泣という場面は、ベタなようで乾いた感じ。

タイトルの「監督失格」は、林由美香本人が、平野が自転車旅行で肝心なシーンを撮れなかった時に、平野に投げた言葉。この映画、平野は徹底してヘタレである。何より、林由美香の腐敗した死体という決定的な場面を撮影できていない。まあそこまでドライにはなれなかったということだろうが。

だから、この映画は、林由美香を題材にして、平野のヘタレ、または弱々しい部分が徹底的にさらけ出されている。主人公の死という衝撃で吹き飛ばされそうになる弱い平野の映画である。あまり整理されていない映像の生々しさが、逆に客を圧倒する。