オカマだけどOLやってます

能町みね子『オカマだけどOLやってます』竹書房、2006


この人は最近よく名前を見る人だが、この本のタイトルどおり、もと男、正確には「性同一性障害」で、男から女になった人だというのははじめて知った。もっとも著者は、「性同一性障害」と言ったり、言われたりするのがあまり好きではないそうで、自分のことは「オカマ」と言っている。しかし、他人に「オカマ」と呼ばれるのはあまり好きではないらしい。いろいろとややこしい。

この本は、自分の幼少期から、大学を卒業して就職した後、ネクタイを締めて会社に行くことがどうしても耐えられなくなり、会社を辞め、両親にも自分の性癖を告白した上で、名前も裁判所で変えてもらって、「女」として就職するようになる過程のおはなし。性同一性障害の人が、どういうプロセスで自分の性別に違和感を感じるようになるのか、男性に対する感情、女性に対する感情はどのように変化していくのか、ということが細かく書かれていて、非常におもしろい。

著者は、ある意味とてもモテていたようで、「男」だった大学生の時でも、男とわかっていながら、男に言い寄られている。しかしその頃はまだ自分を「女」として考えていなかったので、恋愛感情はわかなかったそうだ。その後、外見を女にしていく過程で、女とつきあったり、別の女から言い寄られたりして、その経験の中から「自分は男ではない」ということを自覚するようになっていく。医者に行って、「性同一性障害」と診断されるのはその後のこと。

ボーボワールの「人は女に生まれるのではない。女になるのだ」というやつを、文脈はまるっきり違うが、そのまま実践している人。オカマバーで働こうとしたら、あまりにも給料が安いので即、やめた話とか、履歴書の性別をごまかす(嘘を書くといろいろとまずいので、性別は書かないようにしてすませる)ためにはどうするかという話、社会的に女として通すためにはどういう苦労があるかという話など、いろいろと興味深い話がてんこ盛り。

イラストがたくさんついているのだが、このイラストが特に上手いわけではないのだが、「男」「女」をわざとらしく強調しないで、著者の微妙な性別をうまく描いていて、この本の文章に非常に合っているし、著者の人柄もよく表現できている。

この本が出てから、100日たった時点で去勢手術をすることになっているそうなので、著者はいまごろは、見た目、完全に「女」になっているらしい。いろいろと苦労があったのだろうと思うが、それをことさらに言い立てたり、差別だなんだと言っていないところが好印象。他にもたくさん著書があるようなので、それも読んでみよう。