ベニー・グッドマン物語

ベニー・グッドマン物語」、スティーブ・アレン、ドナ・ミードほか出演、ヴァレンタイン・ディヴィス監督、アメリカ、1955


これもいまごろ見ているのかというベニー・グッドマンの伝記映画。本人存命中に作られたということもあって、ベニー・グッドマンの不遇時代の境遇を強調し、カーネギーホールでのコンサートで幕というおはなし。

印象的なのは、この時代(戦間期)にジャズが上流階級からいかにディスられていたかということ。ベニーと後に結婚するアリス・ハモンド(ドナ・ミード)からして、「すばらしいわ。モーツァルトみたい」と言っている。ベニーは渋面を作って、「これは僕の音楽だから」。そりゃそうだ。アリスの家は、上流かつ音楽評論をしているので、アリスの父親は、ベニーのことを「あんなに上手いのに。才能の無駄遣いだね」とバッサリ。

いろいろ理由はあるわけだが、当然ジャズが黒人音楽から来ているということがひとつ。劇中でも、演奏旅行先に寄ったレストランで黒人の店主といきなりセッションをはじめる場面がある。公民権運動の前では、これも眉をひそめる人が相当いたはず。

別の理由は、ジャズがダンス音楽だということ。いろんなところでダンスの場面が頻出する。一般人にはこれで受けるのだが、上流階級からすれば当然風紀上問題があるということになるだろう。

最後が、カーネギーホールでのコンサートというのも象徴的。実際に劇中で「カーネギーホールで演奏できれば大したものだ」というようなセリフがある。今はポップスもふつうにかかるホールだが、この当時はリンカーンセンターもなく、カーネギーホールはクラシックの殿堂。そこで演奏することがジャズの栄光を示すというオチ。ある意味、モーツァルトに例えて褒めるのと変わらないわけだが、1930年代でも、ジャズの社会的地位というのはこういうものだったのですよ、という、非常に教育的な映画。

まあさすがにベニーがユダヤ人だとか、そういうことには触れていない。それに直接触れると本当にマズイという、これも教育的配慮。