東大医学部

安川佳美『東大医学部 医者はこうして作られる』、中央公論新社、2012

著者は、1987年生まれ、桜蔭中学、高校を経て東京大学理科三類、医学部を卒業。現在研修医という経歴。この本を読んでみたのは、医学部教育、医学生の生活というものがどういうものかをのぞいて見たかったため。想像だが、アホ医学部は別として、一定水準以上の医学部では、細かいカリキュラムの組み方に違いはあっても、医者の作り方の基本ラインにそれほどの違いはないだろう。医歯薬系は、大学での勉強が完全に職業生活に密着しているという点で、他の学部とは違うので、そういうところの学生教育を知りたかったのだ。

だいたい楽だと著者が言っている教養課程を別にすると、医学部の4年間はとにかく忙しい。課題がとにかく山のようにあり、それをこなしていかなければついていけない。試験は一定の期間をのぞけば切れ目なくあり、専門科目の単位は落とせない。当然座学だけでなく、実習が山のように入っていて、起きている時間は集中して勉強していなければならない(たまに、カンファレンスで居眠りしていることはあるにしても)、という世界。

医者になる以上、職業生活が始まってからも勉強はずっと続くわけだが、学生のうちからここまで仕込まれるというのは、他学部とはやはりレベルが違う。頭の善し悪しもあるだろうが、著者がいうとおり、継続的な勉強の習慣が叩きこまれていて、それをひたすらこなしていなければやっていけない世界。国公立や私立のちゃんとした医学部はだいたいこういう生活に耐えられる人だけが生き残っていけるのだろう。

医歯薬系は特別だとしても、他の学部でもこういう本が書かれるべきだと強く思う。著者自身は、医者の世界がどういうものかはよくわかっていない段階で、とにかく上をめざして医学部に入ったと書いているが、高校生は一般に大学に入ってからどういう生活が待っていて、どういう勉強が要求されているのかを知らなさすぎ。オープンキャンパスで大学に都合のいいことを吹き込まれるより、学生が「ここの大学のこの学部に入ると、こういう生活になりますよ」ということをきちんと受験生に対して説明する機会があるべきだと思う。

著者のようにすでに学部学生のうちに、自分の受験体験について一冊本を書き、研修医として忙しい生活を送りながらさらに一冊本を書くのは、並の人間にはできないことだろうが、こういうことが他の分野にも広がっていくことが、受験生と大学の両方にとって非常に有益だと思う。