わが青春に悔なし

「わが青春に悔なし」、原節子、藤田進、大河内傳次郎ほか出演、黒澤明監督、東宝、1946

GHQ肝いり映画で、ある意味型どおりのストーリーだが、この映画がそういう枠におさまっていないのは、原節子の気迫に負うところが大きい。映画の前半、京都帝大教授の娘で、弟子の二人に言い寄られているところでは、よくあるお嬢様っぽいキャラだが、後半には豹変。

左翼活動家になった藤田進とデキてしまい、同棲するが藤田は特高に捕まってしまう。あげくに原節子特高にネチネチいたぶられる。この特高刑事が志村喬で非常によい芝居。さらに悪いことに藤田進は獄中で死亡。ひとり残された原節子は藤田進の実家に移るのだが、それからがたいへん。藤田進はアカだけでなく敵のスパイだったというので、実家ともども原節子村八分。嵐のような村人のいやがらせに目をひんむいて耐える原節子は鬼気迫る形相。こういう芝居をしていたから大女優の名をほしいままにしていたわけですね。原節子の義母役の杉村春子もすばらしい演技。

むかし原節子に言い寄ってきていたもうひとりの弟子で、検事になった河野秋武が藤田進の墓参りに訪ねてきても、しれっとして追っ払う原節子。とにかく「漢」っぽい。半キチガイかもしれないが、それも含めていい役だ。

とにかく泥田で顔をあげる原節子の目力が強烈。小津映画だけ観ていたのでは、この女優について誤解していただろう。