精神

「精神」、想田和弘監督、2008

同じ監督の「選挙」がけっこうおもしろかったのと、「PEACE」が上映されるのにあわせて、この作品が再上映されていたので行ってきた。

精神科クリニックを「選挙」と同じ手法で撮影したドキュメンタリー映画、ということしか知らずに見にいったのだが、説明が字幕もナレーションも一切ないままで進行していくので、わけがわからないことおびただしい。まずクリニックがとても古いボロ家で、ここの先生の家かと思ったがさすがにそうではなく、古い民家を借りているらしい。

このクリニックと障害者の授産施設ショートステイの施設、ヘルパーを派遣する施設が出てくるのだが、これもまったく説明なしで出てくるので、クリニックとこれらの施設がどういう関係にあるのかわからず、非常に混乱する。後で映画の公式サイトを見てやっと把握できたのだが、そのくらいは字幕で出してもいいのでは?

出てくる人は、クリニックの患者を含めてすべて顔出し、音声もそのまま。当然本人の承諾がなければ映画には出せないので、非常に苦労があっただろうと思う。まあ、ほとんどはおとなしい系の患者だが、中には明らかに乱暴な人もいるし、話す内容も子供を虐待死させたとか、かなりたいへんなことを淡々と話している。投与されている薬の量がものすごく(薬の種類はよくわからないが、尋常な量ではない)、かなり重い症状だということはわかる。働けるレベルじゃないので薬代はどうしているのかと思ったら、生活保護。まあ、そうでもなければこれはどうしようもないだろう。

この映画を撮影した時期に障害者自立支援法が国会にかかっていたようで、登場人物は本人1割負担を非常に気にしていた。生保もらっているんだったら何とかなるだろうと思うが、生保受給者以外の人も出ているし、心配は心配なのだろう。

驚いたのはこのクリニックで、先生は月に10万円しかもらっていない(自分の診療所なのに)という。生活費は自分の年金と講演料(他の医師が断るような非常に安いところの講演をまめにしているらしい)と言っていた。かなりいい年の方だが、診療自体がボランティア活動みたいなものだ。お金のない患者からはろくに診療費を取らなかったりするという。いまどきこんな人がほんとにいるのかと驚いた。

監督自身の親戚という人の写真が出てきたりするが、岡山市にある施設で監督の義母に当たる人が働いていて、その関係でこのクリニックを取材することになったらしい。まあ労作であることは確か。

それなりにおもしろかったが、140分近くかかるのは長すぎる。あと40分くらいは削れるだろう。監督は見る人の都合をもうちょっと考えてもらいたい。