青春の殺人者

青春の殺人者」、水谷豊、原田美枝子市原悦子ほか出演、長谷川和彦監督、今村プロ、綜映社、ATG、1976

たまたま深夜にテレビをつけたら日本映画専門チャンネルでこれをやっていて、途中でやめるにやめられなくなり、最後まで見てしまった。封切り時にではないが、学生の時に名画座で見たことがある。もうずいぶん昔だが、ストーリーの骨子は忘れていないから、それだけ印象が強烈だったということ。

日本映画史上、最高の一発屋(正確には二発屋)の長谷川和彦初監督作品。これは文句なく傑作である。

適当で甘ったれな水谷豊もいいのだが、この映画で一番いいのは市原悦子。もう35年前の映画なので、それなりに若いが、この時点でもう役者として完成されている。水谷豊に対する近親相姦的な偏愛(実際に下着姿でしなだれかかっている)は、もはやエロいとか何とかという次元でなく、とりつかれているみたい。結局自分が包丁を持って水谷豊を追い回し(この場面も最高に笑える)、あげくに水谷豊に刺されてしまうのだが、「やさしく、痛くないようにやってね」と誘っておいて、刺されると「痛い、痛い」と泣き叫ぶ姿は一回見たら忘れられない。

水谷豊の恋人役の原田美枝子は、バカっぽいし、あまりきれいでもないが、水谷豊と同じようにいい加減でかつ小狡い役をうまく演じている。この人はきれいになったのは、年を取ってからだったのか。自分が犯されたようによそおって、実はなにげに誘っているあたり、市原悦子と同様、女のコワさを感じさせる演技。

また脚本が非常によくできていることがこの映画の勝因。父親の殺害場面は出さずに、結果だけを見せ、母親の殺害場面はこれでもかとていねいに描いているところには特にうまさを感じる。家に火をつけて首をつろうとするが結局死にきれず、トラックの荷台に乗ってひとり逃げ出すラストもいい。

音楽の選曲、ロケ地になっている千葉県の田舎っぽい感じ、どれも高いレベルで決まっている。これが初監督作品なのだから、なんだかんだいっても、長谷川和彦はあなどれない。