剱岳 撮影の記

剱岳 撮影の記 標高3000メートル、激闘の873日」、木村大作浅野忠信香川照之ほか、大澤嘉工監督、「剱岳 撮影の記」製作委員会、2009

映画「剱岳 点の記」の撮影ドキュメンタリー。この種のメイキングものはあんまり見ないのだが、この映画はドラマというより映っているものがすごいでしょということだったので、どんなものかと見てみることに。

最初のところで、監督の木村大作が「これは撮影じゃないですから。苦行ですから」といきなりかましている。見ていくと、これがただのかましではなくて、ほんとうのことだというのがわかってくる。とにかく山を登るだけでたいへんなところに重い撮影機材を持ち込んで映画を撮ろうというのだ。キチガイ沙汰である。

山小屋を基地にして撮影に出かけるのだが、ロケ地に行くまでが苦行。ひとりひとりが30キロ以上の荷物を背負って山を登るのだ。山岳ガイドが5人ついているのだが、彼らは安全確認のためにいるので、他の人の荷物をもってくれるわけではない。そして、ロケ地に着いてからの天候が問題。雲や霧がかかるのはあたりまえで、激しい雨も降っている。撮影がちゃんとできなければ待つか引き返すしかない。晴天の場面だけを撮影するわけではないので、これはムリでしょという雨の中でも撮影はやっている。

スタッフは「軍隊」「撮影したという記憶がない」「歩いただけ」とか、いろいろ言っている。監督はタバコをスパスパやりながら、「撮影楽しいだろう。わはは」と声を掛けているが、まあ普通じゃない人のようす。

撮影中に季節は変わり、秋になったり春になったりする。春4月とはいっても山の上は雪が積もっている。6月になっても雪が残っているようなところ。衣装は明治時代のものなので、俳優は雪駄や着物だけで歩かなければいけない。これは凍傷寸前だろう。俳優だけではなく、スタッフもエキストラを兼ねなければならないので同じ衣装で撮影されているのだ。

出演者の浅野忠信香川照之松田龍平仲村トオルらは、カメラを向けられるとニコニコしているが、プロの俳優とはいえ、性格もあるんだろうと思う。俳優という以上のことを要求されて、ちゃんと答えているところはさすが。

死人が出なかったのが不思議なくらいの環境。実際にけが人(重傷)は出ているし。けが人が出て一旦、東京に帰ることになった場面とか、場の雰囲気がほとんど悲愴。映画バカはこわいわー。このメイキングだけで、2時間くらいあるのだが途中でやめられなくなって見てしまった。山での撮影が終わって、キャストとスタッフが無邪気によろこんでいる場面では、すなおにほっとした。