ディープピープル 胃がんのスーパー外科医

ディープピープル」 「胃がんのスーパー外科医」、NHK、2011.5.2

前回の写真家の次は外科医。それも胃がんの専門医。

手術前の習慣からはじまって、開腹手術と腹腔鏡手術の実際がビデオで示される。両手利きの人がいて、器用にさくさくと患部を切っている。

3人の年はほとんど違わない(一番年長の人が次の人より5歳くらい上か)が、ちょうど腹腔鏡手術が普及した境目がこのくらいの時期にあたるそうで、年長の人は開腹手術を採り、腹腔鏡手術は「研究的方法」だといっている。ほかの2人は腹腔鏡手術を採っているので、術式の優位性についてガンガン議論している。当然専門家でなければわからないような話だが、具体的な手術の場面を見せることでなるべく話をわかりやすくするように、編集が工夫されている。

特に王貞治胃がんの手術を受けた時の執刀医が腹腔鏡手術派の人で、この手術で王監督が2週間で退院したとか、腹腔鏡手術では難しいこと(胃の全摘)、腹腔鏡手術での技術が未熟であることによる失敗例など、議論の論点がはっきり示されるのでわかりやすい。

特に両手利きの人が後輩医師に両手利きをできるように教育するところがおもしろかった。両手利きは後天的に獲得する能力なので訓練すればできるというのだが、これを身につけるのはかなり大変そう。

それから手術に使う道具の話。3人それぞれが自分が愛用する道具の利点をどこに見いだしているかがおもしろい。道具の先端が指そのもののように器用に動く。よい道具がないと、悪い道具でできる安全性の限界までの手術しかできないという話が印象的。

印象的だったのは、内臓脂肪が厚い患者の手術。肥満の患者が増えたので、内臓脂肪が厚い場合の手術はかなり長い時間がかかるとのこと。患者の年齢も上がっているので手術はますます難しくなっているそうだ。

最後になぜこの仕事を続けていけたのかを語っている。「患者の命を救う」というような話ではなく、「何回手術を重ねても、まだ先がある」「新しく学ばなければならないことがどんどん出てくる」ということ。職人さんだ。プロというのはどの分野でもそういうものだろうなあと思う。

写真家の回が素人でも直感的にわかる要素が多かったのに対して、この回は素人ではわからないことが多い話が多かった。しかし、普通ではなかなか見られない手術の実際の場面をていねいに見せていたのがとても貴重。