関の彌太ッぺ

「関の彌太ッぺ」、中村錦之助木村功、十朱幸代ほか出演、山下耕作監督、東映、1963

ヨロキン出演映画の傑作ということで見てみたが、確かに傑作。イヤミじゃない演出で、しょっちゅう涙が。最近、中島丈博の狂ったドラマ(中島丈博のドラマにはまともなものもいっぱいあるのだが)にすっかり耽溺していたせいもあり、こういう正統派のドラマを見ると、自分の心がキレイになったような錯覚が・・・。

最初に斬られてしまう大坂志郎の娘からして泣かせる。彌太ッぺこと錦之介がどうしようもない成り行きでこの娘の面倒を見ることになるのだが、錦之介の娘への語り「悲しいことやつれえことがたくさんある。だが忘れるこった。忘れて日が暮れりゃあ明日になる」というところがしみじみとよい。娘が大坂志郎が託した家族からあたたかく迎えられる場面が泣き。錦之介が返ってきた金を家族に渡してしまった後の晴れやかな笑顔がまた泣き。

その後時間が経って、木村功が錦之介のふりをして、成長した娘(十朱幸代)をわがものにしようとする。帰ってきた錦之介はやむなく木村功を斬ってしまうのだが、この後の錦之介と十朱幸代のやりとりが号泣もの。十朱幸代は、錦之介が自分の恩人だとは知らないのだが、錦之介のせりふが昔の恩人のそれと同じだったことから、錦之介こそ恩人だとさとる。後を追う十朱幸代から隠れて見送る錦之介の哀れが涙、涙。

最後はやくざの宿命として、錦之介は斬り死に必至の決闘へ。黙って歩く錦之介の後ろ姿で映画は終わり。

この映画が1963年公開なので、錦之介は31歳。すでに大スターなのだから驚くような演技ではないが、せりふのひとつひとつにほんとうに隙がない。しみじみとつぶやくような長台詞が多い役だが、錦之介が口に出すとすべてがきれいに決まっている。木村功はじめ、脇役のすみずみまでみなうまい。古いやくざ映画は心が洗われるわ・・・。