地獄変

地獄変」、中村錦之介、仲代達矢、内藤洋子ほか出演、豊田四郎監督、東宝、1969

なんだかむかしむかしに見たような気はするのだが、ほとんど覚えていないので初見のようなもの。まだ萬屋を名乗る前の中村錦之介がパトロン「堀川の大殿」、絵仏師良秀が仲代達矢、良秀の娘で焼き殺されちゃうのが内藤洋子。脇役も、大出俊、下川辰平天本英世ら、それなりに人を揃えている。

原作の内容では映画として尺がもたないということだろうが、良秀と大殿の対決みたいなストーリーになり、良秀はなぜか高麗からの帰化人ということになり(このあたり微妙に朝鮮人差別ネタをからめているような)、良秀はひたすら美を追い求めるキチガイというよりは、大殿の専制政治とその犠牲になる一般庶民への批判者みたいな位置づけにされている。こういうのはちょっとどうかねぇ。脚色は八住利雄

というわけで、ストーリーは若干書き換えられているが、中村錦之介の大殿と、良秀の仲代達矢という名優がガチでぶつかっているので、この迫力はものすごい。大殿の憎々しい権力者ぶりは中村錦之介に大殿が乗り移ったようなことになっているし、良秀の狂いっぷりも仲代達矢ならではできない迫力。

内藤洋子はアイドルなのでひたすらカワイイのだが、これがいきなり牛車に縛り付けられているところが萌えである。大殿の命令で家臣どもが火の付いたたいまつを一斉に投げ込んで牛車がめらめら燃え上がるところはさらに萌え。内藤洋子の絹を裂くような悲鳴も花を添えている。

原作だと、焼け死ぬ女房(つまり娘)を描いた良秀がくびれ死んでおわり、なのだが、それで大殿が青ざめて終わりというわけにはいかなかったらしく、牛車で焼け死ぬ様を描かれたモデルはなんと大殿になっている。それじゃ娘が焼き殺されたかいがないと思うのだが、まあしょうがない。それだけでなく良秀は大殿のところに化けて出て、大殿は狂乱のうちに自分も焼け死んでしまうのでしたという終わらせ方。

これでは原作の重要な部分を変えすぎだろうと思うが、映画的にはアリ。特に炎に包まれて狂う大殿は、後年の「柳生一族の陰謀」のラストをほうふつとさせる。ヨロキンと仲代達矢の共演はこれ以外にもあるのだろうか。名優が対決するのだから、相討ちはある意味当然か。とりあえずおもしろかった。