継承盃

「継承盃」、真田広之緒形拳古手川祐子ほか出演、大森一樹監督、東映、1992

ヤクザ映画だが、いわゆる任侠映画でも実録モノでもない、「盃事」に焦点をあてたコメディー。

親分の芦田伸介が引退することになり、跡目を梅宮辰夫に譲ることになる。暴力団新法があるから盃事は内々に済まそうという梅宮に対して、親分は烈火の如くに怒って大々的な継承盃の式を行わせることになる。ところが、媒酌人の内田朝雄がダウンしてしまったので代わりを探さなければならなくなり、群馬の田舎にいる古手の親分の緒形拳に声を掛けることになるが、緒形拳は実はとんでもないアル中で、肝心の式までにややこしいことが次々と起こる・・・という話。

真田広之は元証券会社のサラリーマンの新米ヤクザだが、群馬まで行って緒形拳を引っ張り出してくる役。馬に乗ったり、古手川祐子とベッドシーンをやったり、殴られたり、いろんなことをやらされる。コメディに振るためにあんまりいろんなことをやらせすぎで、そこの部分はたいして笑えない。

しかし、ハイライトの盃事の場面は、ここをていねいに描いている映画は少ないこともあって、非常に迫力がある。アル中やくざの緒形拳が中心になって式をしきるのだが、ひとつひとつの所作が全部きれいに決まっている。手が震えて酒をすこしこぼすところまで、非常にリアルに感じられる。名優の演技というのはここまでできるのかという感じ。

脇役の、芦田伸介(このころまだ元気に映画に出ていたことに驚いた)、梅宮辰夫、内田朝雄、川谷拓三、ほかの人々もやくざが板に付いていて重みがある。梅宮辰夫は別として、他の人はもう亡くなっているから、余計に貴重。芦田伸介の親分はなんともいえない貫禄があり、やくざ映画はこうでなくてはと思わせる。今のやくざ映画といえばVシネだからなあ・・・。あれはあれでいいが、重い役をやれる役者(特に年長の人)がほとんどいなくなっていることは本当に痛いと思う。