火宅の人

「火宅の人」、緒形拳原田美枝子いしだあゆみほか出演、深作欣二監督、東映、1986

原作は読んでいないのだが、まあむちゃくちゃな(著者というか主人公の「桂一雄」が)話である。先妻とは死別、後妻はコロコロ子供を産むが、次男(後妻の子)が病気になってから後妻は宗教にこりはじめ、主人公は女優を愛人にして家を出て行き、後妻はそれでまるっきりおかしくなってしまい、主人公はますます愛人に溺れ、というような話。

まあありそうな話だが、主人公の緒形拳がまるっきりしれっとしていて、後妻のイヤミにも、泣きわめく愛人にもまともに向き合わないところは笑える。確かにこれでまともな神経だったら、妻と愛人のあいだで自分が参ってしまいそうだが、実際に参ってしまうのは妻と愛人の方。

愛人役の原田美枝子と後妻役のいしだあゆみは両方ともほとんど怪演。ほんとにこの二人に挟まれたら、緒形拳くらいでなければもたないだろうという感じ。原作者の実娘の檀ふみは、主人公の母親役(つまり自分の祖母役)でちょっと出ている。檀ふみのエッセイでは、母親はとても落ち着いた人っぽいが、若い頃はやっぱりすごかったのだろう。小説の誇張は差し引くとしても。

深作欣二の演出は、ハチャメチャな人々の生活を一歩引いて眺めるような感じで、これはこれでありでしょうという感じ。ただ、深作映画の中でこれがよくできている方なのかと言えば、ちょっと疑問に感じるが。