二・二六事件 脱出

二・二六事件 脱出」、高倉健三国連太郎ほか出演、小林恒夫監督、ニュー東映、1962

いきなり画面に映る「ニュー東映」のロゴマークが貴重な62年の映画。二・二六事件関係で見た他の映画(「銃殺 2.26の叛乱」1964、「動乱」1980、「226」1989)がろくでもないのであきれていたが、これは非常におもしろい佳作。

事件を青年将校の側からではなく、総理公邸に閉じ込められた「岡部首相」(矢吹郷之助=ゼネラルこと柳永二郎)を救出しようとする、憲兵曹長高倉健)と総理秘書官(三国連太郎)の側から描く。

警備の警官や義弟の機転でからくも女中部屋の押し入れに隠れた岡部首相の存在を高倉健三国連太郎が別々のルートでつかみ、救出に乗り出す。首相官邸を占拠する将校は江原真二郎。一方、高倉健には、今井俊二、山本麟一が、三国連太郎には、中山昭二が脇を固める。渋すぎる配役。

この配役以上にスキがないのが脚本で、信用できない陸軍上層部、頼りにならない海軍の間で孤軍奮闘の救出陣、老齢の総理をそれとわからないように連れ出す秘策、その後に秘書官、憲兵、女中たちをうまく逃がさなければならないぎりぎりの攻防戦が、スリル満点で描かれる。特に総理を逃がしたところで弛緩しそうな話を、そこから盛り上げていく展開がうまい。最後の最後まで、まったく飽きさせない展開。終わりをダラダラさせずに、さくっと切ったところもよい。

他の二・二六事件がらみの映画は、作っている方が反乱軍に肩入れしていて(それはそれでいいのだが)、ヒロイズムに酔ったような作品になってしまっているのがつまらない。この作品では、反乱軍は敵役だが、そんなことよりも脱出がうまくいくかどうかの話に絞って、緊張感を高めているので見ていて楽しめるのである。