新国立劇場 神々の黄昏

ワーグナー  「神々の黄昏」

    クリスティアン・フランツ(ジークフリート)、イレーネ・テオリン(ブリュンヒルデ)、ダニエル・スメギ(ハーゲン)ほか、ダン・エッティンガー指揮、東京フィルハーモニー交響楽団新国立劇場、2010.3.30

新国立劇場での「指環」4部作での最終上演。なんとかチケットを手に入れていくことができた。当日、Z席をゲットして見に行こうとした友人はゲットに失敗とのこと。いつもに比べてZ席の枚数が少なかったらしい。このチケットもヤフオクでやっとのことで手に入れたのだが、オークションに出ていた数が少ない!みんな「神々の黄昏」だけは見に行きたいと思っていたのだろうと思う。とにかく行けただけでもラッキー。

序幕、3人のノルンがいなくなったあとでジークフリートブリュンヒルデが出てくるのだが、「ジークフリート」でタイトルロールが着ていたスーパーマンのTシャツを、今度はブリュンヒルデが着ている。ジークフリート本人は代わりに、「B」「W」の文字が入ったTシャツを着ている。Bはブリュンヒルデ?Wは何?よくわからん。

ジークフリートのラインへの旅では、ライン川一帯とおぼしき地図が舞台に投影される。地図全体に「ギービヒ家の国」とあり、「フンディングの洞穴」「ミーメの家」「ナイトヘーレ」「ギービヒ家の館」の場所がちゃんと地図に書いてある。

第一幕、椅子が二つ向かい合っただけのギービヒ家の館。「舞台天井から「ギービヒ」という大きな字が下がってくる。ジークフリートが薬酒であっさりイッてしまうところはふつうどおりとして、変わっているのは、ヴァルトラウテがブリュンヒルデを訪ねてくる場面以後、ずっとハーゲンが舞台上に残っていること。さらに、ジークフリートがグンターに変装してブリュンヒルデを襲うところでは、ジークフリートとグンターが二人とも舞台に出てくる。つまり、ブリュンヒルデジークフリート(元の衣装で変装はしていない)、グンター、ハーゲンと4人が舞台上にいる。この演出はわかりやすくて、けっこう「あり」だと思う。

第二幕、冒頭のアルベリヒとハーゲンの場面、アルベリヒは、椅子の上でほとんど死に掛けている状態で登場し、場の終わりにはハーゲンはクッションをアルベリヒの顔に押し付けて殺してしまう演出になっている。ハーゲン悪い奴だなー。この演出もちょっとどきっとするが、自分としては「あり」である。続く、ハーゲンがギービヒ家の家臣を呼び集める歌と合唱の場面は、ハーゲンの良く通る声と合唱がからみあって、いい感じの迫力。ギービヒ家の家臣たちの右往左往ぶりもよいと思う。そして、終わりの、ハーゲン、ブリュンヒルデ、グンターの陰謀三重唱、ここも決まっていた。第二幕はとくに満足。

第三幕、ジークフリートの葬送行進曲は、ジークフリートが舞台上一人残って、ブリュンヒルデに歩み寄ろうとする演出。ここはオケがいまひとつ鳴っていなかったような気もするが、まあよしとする。最後、ブリュンヒルデの自己犠牲の場面では、第二場から出てきていた煙突の生えた小屋みたいなものが、ジークフリートブリュンヒルデを焼くための焼却炉だったことがわかる。焚き木になるのはギービヒ家の家臣たちの槍である。ブリュンヒルデは、途中ちょっと声量が落ちたが、最後のところでは劇場中鳴り響くようにがんがん声が出ていた。イレーネ・テオリンさすが。

最後のワルハラ城炎上の場面では、このオペラで指環のモチーフに使われていたジグゾーパズルのピースの大きくなったものをラインの乙女が持ってきて、それをスクリーンに投げつけると、ピースが欠けたパズルにきちんとはまり、「愛の動機」のところでは、いままでのギービヒ家の家臣の格好とは違う、普通の服を着た人間たちが、舞台に立っているという演出。呪いと謎は解け、人間の世の中が始まりましたという終わり方。

ブリュンヒルデジークフリート、ハーゲンの3人はいずれもよく歌っていたし、グンター、グートルーネもよかった。オケはすごくよかったとはいえないし、特に金管がけっこうとちっていたところは残念だったが、まあ、お疲れさまというべきか。演出は場面場面でいろいろ謎かけがあって、見ていて非常に楽しかった。演出のキース・ウォーナーには心から、よかったよ!と言いたい。そして、歌手、指揮者、楽団、合唱の皆様もお疲れ様。2年間、とても楽しめました。14時に始まって、20時をすぎてもやっている舞台でこれだけ集中できたのもみなさんの力あればこそ。新国立劇場の次シーズンでは、「トリスタン」がかかるということで、これも非常にたのしみ。