選挙

「選挙」山内和彦ほか出演、想田和宏監督、Laboratory X、2007

選挙(2005年川崎市議補選)のドキュメンタリー映画。主人公は、この選挙に自民党から立候補した山内和彦氏。しかしこの人、公募で引っ張ってこられた落下傘候補で、地元(川崎市宮前区)にはぜんぜんつながりがない。加えてお金もないので、選挙戦は地元の自民党組織にまるっきり頼り切りである。

ということなので、陣営内ではほとんど立場がない。この選挙区ではもともと自民党がそれほど強くない上、市議たちにとっては次の選挙ではライバルになるかもしれないのだから、みな簡単に手を貸してはくれないのだ。とにかく、陣営の関係者からは怒られまくり。「時間に遅れた」「とにかくお辞儀」「妻というな、家内と言え」などなど。やることといえば、自分の名前を連呼するのみ。老人会や幼稚園の運動会に出たり、自らビラを配り、握手、握手。どぶ板選挙というものはこういうものですよということがよくわかる映画。宮前区なんて、川崎都民ばかりのベッドタウンだが、それでも選挙戦のやり方は、田舎と全然変わらないのである。

この補選は、参院神奈川補選、川崎市長選と同時に行われたので、小泉首相が応援に来ている。人が大勢集まっているのはこの時くらい。小泉人気も絶頂だった時期なので、候補者も「小泉自民党山内和彦です!」をひたすら叫んでいる。それでなんとか当選するのだが、次点の民主党候補とは1000票差。次の2007年川崎市議選には立候補しなかったらしい。まあ、結果論でいえば正解だろう。政治家という職業を続けるのは楽なことではないのだ。

途中で候補者の奥さんが、仕事をやめろと陣営の関係者に言われてキレたり、大学時代の友人が訪ねてきて候補者が内情を暴露したりしているところなど、かなり面白い。監督はこの映画を「観察映画」と呼んでいて、ナレーション、テロップ、BGMなどは一切なし。ひたすら、候補者をカメラが追いかけていくだけである。

「今日のテレビドキュメンタリーでは、予定調和的なつくりや、メッセージを観客に押しつけるような手法が主流で、それではドキュメンタリー本来のおもしろさはわからない」と、監督自身が放送時の冒頭メッセージで言っていて、そのとおりだと思う。民放のドキュメンタリー(深夜にやっているもの)は特にそうで、NHKですらそういうものが多いのだ。そういうものにうんざりしている人にはおすすめの一本。