火の魚

「火の魚」、原田芳雄尾野真千子ほか出演、黒崎博演出、NHK総合、2010.1.2

このドラマは本放送の時はちゃんと見ておらず、途中まで見てから外出してしまった。ちょっとおもしろそうだったので残念なことをした、と思っていたのだが、去年の芸術祭大賞を取ったので、広島限定で再放送されることになり、ようやく見られるようになってよかった。広島放送局といえば、毎年原爆原爆とお経のように繰り返すばかりで、それしかやることはないのかといいたくなるようなつまらない地方局だと思っていたが、たまにはこういうプレーもできるのだとわかってちょっとだけ見直した。

原田芳雄が、東京では活躍していたが、田舎の島にひきこもってからは、駄作しか書かなくなってしまった作家、尾野真千子が若い編集者。ほとんどの場面はこの二人のやりとりで進む。作家は、今は駄作しか書いていないが、自分でそのことがよくわかっているので、耄碌はしていない。一応大作家なので尊大。編集者は、若く態度も恭謙だが、言うことははっきり言う。実はガンを患っていて、それがドラマの重要なポイントになっている。

50分あまりのドラマだが、構成が非常に緊密でゆるみがない。原田芳雄がうまいのは当然として、尾野真千子が非常にいいと思う。わたしは、「萌の朱雀」とか「殯の森」などのこの人の主演作品を見ていないので、ほとんど初見のようなものだが、鋭いところと緩んだところの両方できちんとした芝居のできる希有な人である。

何がいいかというと、やはり脚本がいいのだが、書いている人は渡辺あや。テレビドラマは初執筆だということだが、「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「天然コケッコー」と映画で傑作佳作を連発している人である。このドラマの成功の半分は、この脚本のおかげだと思う。

ロケ地は大崎上島で、田舎の島の様子がこのドラマの雰囲気作りに大きく貢献している。最後の場面もウェットなところがなく、キレのいい終わり方。