格差社会の結末

中野雅至『格差社会の結末 富裕層の傲慢・貧困層の怠慢』、ソフトバンク新書、2006

著者は厚生労働省の官僚から学者に転じた人。労働畑を歩いてきたので、政府統計を使って問題をよく整理してあり、自分の議論を無理やり通すために限られた資料で極端な主張をするようなことはしていない。「小泉政権格差社会の元凶」のような単純な議論にもきちんと反論されている。

結論も、税金は自立支援に使い、貧困層を生活保障にぶら下がるようなことはさせないようにする一方、富裕層の所得税率は上げるといった中道的なもの。これらも資料でていねいな裏付けがされているので、問題の理解には役に立つ。

「まじめでよく働く日本人」という従来の労働倫理をなんとか再建しようとする著者の立場は、理解はできるし、「信頼の回復」という考えもわかるが、そうした倫理の基盤そのものが危なくなっている状況を考えると、そうした処方箋の有効性には疑問がつくかもしれない。