小説吉田学校

小説吉田学校」、森繁久弥若山富三郎ほか出演、森谷司郎監督、東宝、1983

原作は読んでいないのだが、クレジットを見ると、「小説吉田学校」だけでなく、戸川猪佐武のいくつかの小説を組み合わせて脚本を書いているようだ。実際、話は吉田茂の最初の首相就任から、1954年の内閣総辞職でほぼ終わっており、「吉田学校」の人々のその後についてはほとんど出てこない。ほぼ吉田茂の政権時代だけである。話の中心は、前半は早期講和をめざす吉田の奮闘、後半は総理の座をめぐる三木武吉をはじめとする保守勢力の領袖たちとの死闘。

とにかく、役者はオールスターを集められるだけ集めたという感じで、吉田の宿敵扱いの若山富三郎三木武吉)ほか、芦田伸介鳩山一郎)、藤岡琢也(広川弘禅)、小沢栄太郎(松野鶴平)、池部良緒方竹虎)ほか、中堅、若手まで後に出世する政治家にも、もれなくメジャーな役者があてられている。もっとも、あまりに登場人物が多いので、誰が誰だかだんだんわからなくなってくるのだが・・・。

森繁は吉田茂本人にほんとうによく似ている。半ば生き写しのよう。これがあるので、他の役者が多少似ていなくても違和感なく受け入れられる。尊大さや迫力も十分表現されている。一方、若山富三郎三木武吉は、圧倒的な存在感。ほとんど下着姿のような服装や短く刈った頭、押し出しが強烈。この二人の迫力で映画はちゃんと成立している。

後は、誰がどの役を演じているかを見ているのがおもしろい。池田勇人高橋悦史佐藤栄作竹脇無我田中角栄西郷輝彦。特に西郷輝彦は、だみ声で熱弁を振るう田中をよく演じている。女優は吉田の娘、麻生和子を演じる夏目雅子ひとりだけ。これもよい配役。

こういう人数の多い群像劇を厚みのある役者で作ることは、今ではムリになってしまっているので、そういう意味で貴重な映画。出てくる政治家のイメージも今とは違うし。政治は芝居仕立てで見るのがおもしろい。