FAIL SAFE 未知への飛行

「FAIL SAFE 未知への飛行」、リチャード・ドレイファスジョージ・クルーニーほか出演、スティーブン・フリアーズ監督、アメリカ、2000

シドニー・ルメットの1964年製作作品「未知への飛行」のリメイク。白黒作品というところまで前回と同じ(これは正解だと思う)。見ていて、なんとなく安っぽいなあと思っていたのだが、ちょっと調べてみて仰天。これは「生放送テレビドラマ」だったのである。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Miyuki/2064/tvs/00/failsafe.htm

基本的にセット内だけで進むお話(大統領執務室、オペレーションルーム、空軍司令室、爆撃機の操縦席)なので、ある意味テレビ向きかもしれない。しかし生放送とは思いもしなかった。なるほど、音楽はまったくなし。効果音だけで話が進行する。脚本はほぼ、1964年版の内容を踏襲しているので、スリルの盛り上がり方はとてもよい。爆撃機がモスクワに近づく過程は、基本的に空軍司令室のスクリーンでしか見えないのだが、これが緊張感を高めているのである。

さらに、自分は見ていて、この作品はてっきり911のテロ事件に触発されてリメイクされたのだと思い込んでいたが、クレジットを見ると製作は2000年である。これは製作側に先見の明あり。冷戦が終わって10年もたち、核兵器のことはみなあまり気にしなくなったところに、コレが来たのだから、特に64年版を見たことがないアメリカ人にはショックだったろう。しかも翌年のテロ事件で、実際にニューヨーク壊滅というお話はあながち空想上のものではないとわかったのだから、衝撃は倍増しである。

しかし、あえていえば、64年版に比べると本作はやや出来が劣る。テレビ的な安っぽさを無視しても、問題が二つ。一つは、リチャード・ドレイファスの大統領である。前作がヘンリー・フォンダだから、比べるとかわいそうだが、大統領としての威厳にやや欠ける。演出にも問題があると思うが、いやしくもアメリカの大統領たるもの、あんまり興奮して大声とか出してはいけない。それにしゃべりすぎ。もっと抑えた演技にしないと悲劇性が高まらない。もうひとつは、脚本の問題なのだが、64年版では、最終的な大統領の決断にいたるまでにスタッフ達が、この事件に乗じてソ連を先制攻撃するかどうかについて、かなり突っ込んだ議論をしている。ここがかなり省略されてしまっているのである。確かに、サスペンスだけでいえば、その部分はなくても成り立つ。この作品でそれはわかった。しかし、このスタッフの議論のパートが薄いと、核戦争が現実になった時に指導者がどのような論理でものを考えるかというところがよく見えなくなってしまう(キューブリックの「博士の異常な愛情」は、ここを「皆殺し爆弾」のアイディアと喜劇仕立ての脚本で、うまく見せていた)。キューブリック作品に比べて、一歩長じていた貴重な場面だったのに、大幅カットになってしまったのはとても残念。時間の都合だったのだろうか。

64年版も続けて放送していたので、そちらも見ればよかった。といってもDVDには落としてあるのでいいけど。「核戦争もの」の佳作がこうしてリメイクされるのはよいことだと思う。