刑法三九条は削除せよ!是か非か

呉智英佐藤幹夫(共編)『刑法三九条は削除せよ!是か非か』、洋泉社新書y、2004

刑法三九条(心神喪失心神耗弱者への刑罰の免除、減軽規定)をめぐる議論を集めた本。賛否あるいは賛否とは別の視点から問題を見た論考が幅広く集められており、この問題を議論する基礎的な知識を得るために役立つ。

比較的おもしろかったのは、小谷野敦「新論・復讐と刑罰」(ただし、表題のとおり復讐としての要素を刑罰にもっと盛り込めという話で三九条の妥当性の議論とは少しズレているような気がする)、橋爪大三郎「「刑法三九条」を削除する理由はどこにもない」(オーソドックスな立場から、責任能力と可罰性の関係を議論したもの)、林幸治「寡黙な条文を補完するもの」(医療現場の安全を触法精神障害者が脅かしている問題を強調)、滝川一廣「生活や社会をどう守るのか」(データに基づいて統合失調症患者への刑事処分、起訴前鑑定で不起訴処分になった者の数とその後の処遇、触法精神障害者と一般受刑者の再犯率の比較などを検討)といった論考。

論者のおかれた立場(評論家、精神科医、弁護士)によって議論の方向性にかなり差があり、弁護士は精神障害をもつ被告人の権利保護、精神科医は治療に関心が集中しているようだ。弁護士の中での厳罰論、精神科医の中の保安処分寄りの議論(こっちは林の論考がそれにあたるが、もっと踏み込んで書いてほしい)をもっと読みたい。