父の詫び状

「父の詫び状」、杉浦直樹、吉村実子、長谷川真弓ほか出演、深町幸男演出、NHK、1986

向田邦子の名作エッセイだが、こちらはテレビドラマ版。脚本はジェームズ三木。舞台は昭和15年の東京ということになっている。淡々とした演技、抑えた演出、静かな音楽、それらがみなきちんと調和していて、味わいの深い劇になっている。役者は父親役の杉浦直樹、母親役の吉村実子、長女(向田邦子)役の長谷川真弓、祖母役の沢村貞子、いずれもあつらえたように役にはまっている。岸本加世子のナレーションも非常に上手い。長谷川真弓はまだ16歳だが、文句のつけようがない。
時期的には日中戦争も激しくなっている頃で物資もそんなに豊かではなかったはずだが、ドラマからはそうした雰囲気はあまり感じられず、ただ昔のおちついた時代の日本の風景が伺える。見た後でしみじみとした余韻の残る話。