朝日VS.産経 ソウル発

黒田勝弘、市川速水『朝日VS.産経 ソウル発』、朝日新書、2006

朝日と産経の朝鮮半島問題の看板記者が、韓国、北朝鮮関係の問題を取り上げて論戦する、という本。歴史問題、日韓両国のナショナリズム北朝鮮が主なテーマ。よくも悪くも朝日的な立場と産経的な立場でぶつかり合っている。まず黒田の問題について言えば、彼は朝鮮半島問題の著述家、あるいは評論家としてならともかく、「事実の報道」を主旨とするジャーナリズムの立場から外れすぎているのではないか。彼の記事はおもしろいとは思うが、この本でいっているようにあからさまに「世論をひっぱっている」ようなことをするのは困る。もっともだからといって市川が同じようなことをしていないというわけではなく、上手にいいつくろっているということなのかもしれないが。市川の問題は、彼が古い意味での朝日新聞的スタンスからいっこうに抜け出ていない(市川はまだ40代)ということがひとつ。しかしさらに悪いのは北朝鮮問題に関する市川の分析視点で、「ミサイル試射以降、金正日は狂っている、あるいは実権を軍に奪われた」などととんでもないことをいっている。自分の予測が事実に照らして外れたときにするべきことは、自分の分析枠組の誤りを修正することのはずであり、対象をキチガイ扱いするなど論外。これが朝日で朝鮮半島問題をしょって立つ記者のすることかとあぜんとするばかり。もっとも北朝鮮問題については、黒田の「強硬策で北が崩壊すれば万事上手くいく」という思い込みの根拠もよくわからない。それは希望的観測でしょう。