痴情小説

岩井志麻子『痴情小説』、新潮社、2003

「翠の月」「朱の国」といったように、各章に色のついた表題がついている(いくつかは原題を改題したもの)。で、「痴情小説」というタイトルの通り、全編にけっこう濃い濡れ場がついている。しかし岩井志麻子の他の小説と同じく、描写は濃いが、濡れ場といってもぜんぜんエロさがない。女は「おうおう」と声を出す。犬が吠えているようだ。「痴情」というのはそういうものかもしれないが。
それから岡山。登場人物はみな岡山がらみ。岡山は「八つ墓村」はともかく、もっとあっさりした土地だと思っていたが、岩井志麻子の小説を読んでいると、そこらじゅうに霊がうようよしているところのような感じがする。そういうのは嫌いではないけど。
自分としては、昔アイドルだった女と愛人の怪奇譚「翠の月」とあまり売れてないテレビレポーターとネックレスの話「碧の玉」が一番好きかな。